カンファーcamphorともいう。ショウノウ(樟脳)の医薬品名。ショウノウは医薬品のほか,セルロイド,火薬,フィルムなどの原料とされ,防虫剤,防臭剤などにも用いられる。カンフルは起死回生の強心薬としての意味をこめて比喩的に〈カンフル注射〉の言葉が用いられるが,現在では強心薬としての用途は限られている。カンフルの薬理作用として次のような性質が知られている。(1)中枢興奮作用 大量に用いれば大脳皮質運動野を刺激して痙攣(けいれん)を誘発する。常用量でも延髄の呼吸中枢および血管運動中枢を刺激して呼吸を促進し,血管を緊張させる。(2)心臓作用 心臓に対してカンフル自体は強心作用を示さず,かえって抑制作用を及ぼすが,体内で酸化されて生ずる代謝産物は心臓の収縮力を増大させて強心作用を呈する。とくにカンフルの酸化物の一種であるトランス-π-オキソカンファー(商品名ビタカンファー)は心臓に直接作用して心拍動をさかんにし,また,延髄の呼吸および血管運動中枢に作用して機能を促進させるので,呼吸,循環系の興奮薬として用いられる。(3)皮膚刺激作用 カンフルは外用すれば皮膚を刺激し血行を改善する作用があるので,凍傷,神経痛,リウマチなどに,カンフル精,セッケンカンフル擦剤,カンフル軟膏などとして用いる。
→ショウノウ
執筆者:渡辺 和夫
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樟脳(しょうのう)のことで、カンファーともいう。クスノキの幹、根、葉の細片を水蒸気蒸留して得られるカンフルと樟脳油を分離精製したものが天然カンフルで、日本薬局方ではd-カンフルという。純合成したものがdl-カンフルで、合成樟脳ともいう。いずれも無色または白色半透明の結晶、結晶性粉末または塊で、特異な芳香があり、味はわずかに苦く、清涼感がある。中枢神経興奮作用、局所刺激作用、防腐作用などがある。かつては蘇生(そせい)薬として知られたが、現在はほとんど使われない。おもに外用剤として凍傷、神経痛、打撲傷、皮膚病などの薬に配合して用いられるほか、一般家庭用の衣類防虫剤として多くの市販品が知られる。
[幸保文治]
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「カンファー」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…〈覚せい剤取締法〉によりその使用は厳しく制限されている。覚醒剤(3)脳幹興奮薬 ピクロトキシン,ペンテトラゾール,カンフル,ニケタミド,ベメグリドなどは脳幹,ことに延髄に作用して,呼吸,血液循環の中枢を興奮させる。このうちのいくつかの薬物は,催眠薬や麻酔薬の中毒の際に呼吸興奮薬として使われるが,大量を与えたときは痙攣を起こす。…
※「カンフル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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