前58年から前51年にかけてカエサルがガリア(ほぼ今のフランス,ベルギー)で行った遠征の記録。全8巻。うち第7巻まではカエサル自身の著作で,第8巻は彼の死後部下のヒルティウスが書き加えた。7巻までは1年ごとに1巻をあて,8巻は2年分である。年々ローマ元老院に送った報告書に手を加えてまとめたもの。いつごろ発刊用に仕上げられたかについて諸説があるが,前52年の冬から前51年の春にかけて書かれたとする説が有力である。以前からカエサルを共和政の伝統に反する独裁者として告発しようと躍起になっていた政敵たちは,ガリア戦争終結時を絶好の機会と考えていた。これに対抗するため発刊したとされる。原本は散逸したが,多数の写本が現存しており,うち重要なものは9世紀ころにさかのぼる。カエサルによる《内乱記》,彼の部下が著した《アレクサンドリア戦記》《アフリカ戦記》《ヒスパニア戦記》と共に《カエサル全集(コルプス・カエサリアヌム)》として一括される貴重な文献史料群の中に位置する。ガリアのみならずブリタニア,ゲルマニアの事情も紹介されており,この地方に関する信頼できる文献としては最古のもの。タキトゥスの《ゲルマニア》と並ぶ古代ゲルマン研究の最重要史料ともされている。カエサル自身を三人称で語り,客観的に事実を報告する手法がとられ,簡潔,明晰かつ流暢な文体は,ラテン散文の最高峰を示している。その文学的価値はキケロのような同時代の知識人からも高く評価されていた。近山金次訳(1942)などの邦訳がある。
→ガリア
執筆者:小路 孝子
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ローマの政治家カエサルの作品。紀元前58年から前50年までの、地方長官としてカエサルが遂行したガリア戦争の記録。全8巻。カエサル自身の筆は第1巻~第7巻(ウェルキンゲトリクスを破る前52年のアレシアの決戦まで)であり、第8巻は彼の部将ヒルティウスの手になる。ガリアでの戦いを客観的で冷静な筆で描くことによりローマの戦争の正当性を示し、政治家、将軍としての自らの立場、功業を明らかにしたもの。前1世紀のガリア人社会を知るための史料として重要。第一級の歴史書であるとともにラテン文学の傑作。
[長谷川博隆]
『近山金次訳『ガリア戦記』(岩波文庫)』▽『国原吉之助訳『カエサル文集』(1981・筑摩書房)』
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カエサルの著作。ガリア遠征記で全8巻からなる。前58~前51年にガリアを征服したカエサルが,主にガリア人に対する戦争の経過を記したもの。第8巻(51年と50年の記述)はその部将ヒルティウスの手になる。ゲルマン人についての記述をも含み,ガリアの事情やゲルマン社会を知るための貴重な史料である。簡潔な文体で知られる。
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…しかし,権力・栄誉を一身に集中したため,共和政護持派のブルトゥス,カッシウスらに前44年3月15日,元老院議場で暗殺された。 雄弁家・文人としても第一級の人物であったが,演説の草稿,書簡,パンフレットは散逸し,現存するのは,簡潔な文体,的確な現実把握の点でラテン文学の傑作といわれる《ガリア戦記》《内乱記》のみである。
[評価]
常に運命の女神と共にあることを確信したばかりか,世人に〈運命の寵児〉とみなされた一方,政敵を心から受けいれてゆく仁慈の人としても知られる。…
…執筆の時期は《アグリコラ伝》と同じころ(98年)である。《ゲルマニア》は,ライン川の西,ドナウ川の北に居住していたゲルマン諸部族のようすを語る民族学の書であり,カエサルの《ガリア戦記》とともに,当時の状況を伝える重要な史料の一つである。著者自身が認めているごとく,本書はポシドニウス,カエサル,リウィウスらの記述に基づいており,タキトゥス自身はゲルマニアを訪れたことがなかったと思われる。…
…カエサルの部下で前54年ころからガリア遠征中のカエサルと行動をともにし,下士官もしくは秘書長として彼に仕えた。カエサルの《ガリア戦記》のうち最後の第8巻はヒルティウスの筆になるもので,おもにこのことによって後世に名を残した。内乱勃発後もカエサルとともにスペインやギリシアに赴いた。…
… この時代には歴史記述も盛んに行われた。カエサルの《ガリア戦記》と《内乱記》は,覚書の形式による自己の政治活動の記録であり,宣伝と弁明を兼ねている。サルスティウスの《ユグルタ戦記》と《カティリナの陰謀》および《歴史》は,ローマ人の道徳的堕落にローマ国家崩壊の原因を求める,きわめてローマ的な史観に貫かれている。…
※「ガリア戦記」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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