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キブツ kibbutz

翻訳|kibbutz

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

キブツ
kibbutz

イスラエル独特の集団農業共同体ヘブライ語で集団の意。 20世紀の初めおもにロシアや東ヨーロッパからパレスチナに移住してきたシオニスト (→シオニズム ) の多くは社会主義の影響を受け,ユダヤ人自身の労働によってパレスチナにユダヤ人の理想社会をつくろうと考えた。そのためにつくられたのがキブツである。構成員間の完全な平等,相互責任,個人所有の否定,生産・消費の共同性の原則に基づいて組織され,その形態は,中心に共同食堂を含むサービス区域をおき,これをはさんで居住区域と作業施設区域があり,そのまわりを農場が取巻く。衣食住など生活に必要なものはすべてキブツが提供,夫婦の家,子供の家,青年の家などが別々にあり,両親と子供は寝食をともにせず,育児や教育も集団で行われる。いわば一種の共産制農業共同体で,個人所有を認めながら農作業や販売を協同組合方式で行う入植農村モシャーブとは区別される。 1909年にガリラヤ湖畔につくられたのが最初で,48年のイスラエル建国までに約 130ヵ所建設され,パレスチナのユダヤ人社会の食糧自給,防衛活動,移民の受入れの面で先端的役割を果すとともに,ユダヤ人の入植活動,労働シオニズム運動の中核的にない手であった。建国後もキブツはふえつづけ,90年の時点で,約 350を数える。しかし労働シオニズムを体現する存在であったキブツの性格は,1970年代に入って大きく変容した。かつてはイスラエルの全農産物の 70%近くがキブツによって生産されていたが,その後その多くが経営危機に陥って政府の財政援助に依存するようになり,特に 1977年のリクード政権成立後は,商業的農業の拡大に伴って「自己労働」の原則も薄れ,アラブ人労働者を雇ったり,雇用労働力による軽工業や観光施設経営に転じるものが多くなった。現在,キブツ成員はイスラエルの全人口の約3%にすぎず,そのうち農業従事者は約4分の1にすぎない。

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デジタル大辞泉の解説

キブツ(kibbutz)

《ヘブライ語のqibus(集団の意)から》イスラエル国の農業共同体。私有制を否定し、運営・生産・教育などを共同で行う。

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百科事典マイペディアの解説

キブツ

イスラエルの農業共同体。名称は〈集団〉の意。300〜500人くらいの規模。財産の共有,雇用労働の廃止,共同体による衣食住の完全な支給,自衛を原理とするが,成員は各自の家で個別的生活を営む。
→関連項目イスラエル集団農場メイア

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世界大百科事典 第2版の解説

キブツ【kibbutz】

ヘブライ語で〈集団〉を意味し,イスラエル建国運動において形成された独特の農村形態をいう。それは,構成員間の完全な平等,相互責任,自己労働,個人所有の否定,生産・消費の共同性の原則に基づいて組織された共同体で,ふつう300~500人程度の規模で,なかには1000人を超すものもある。村の経営方針は総会で決定されるが,教育・文化活動,住宅問題,各個人の作業分担など日常の運営管理は,運営委員会で処理される。

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大辞林 第三版の解説

キブツ【kibbutz】

イスラエルの農村共同体。私有を否定し、生産・消費活動や教育を共同で行う。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

キブツ
きぶつ
kibbutz

イスラエルにおける農業共同体の一形態。類似の共同体としてモシャブmoshav(非共産的農業協同体)があるが、キブツは全財産の集団所有、徹底した共同生活、子供の共同育成などを特色としている。1909年、東欧から移住してきたユダヤ人によって最初のキブツが誕生し、シオニズム運動とマルクス主義と青年運動との結合として展開されたキブツ運動によって発展した。1996年現在、その数は269、人口は12万2500人で、イスラエル全人口の2.13%となっている。一つのキブツの構成員は60人から2000人程度までで、一定していない。
 1980年代までの典型的なキブツは次のようであった。土地は国有、経済活動は性に基づく分業が行われており、男性は農業部門(生産部門)で、女性はサービス部門(非生産部門)で主として働く。労働は、「労働に対する良心」によって支えられ、「各人はその能力に応じて、各人にはその必要に応じて」という共産主義の原理が文字どおり実行されている。総会が最高の決議機関であり、立法、行政、司法の権限を兼ね備えている。役職は構成員による持ち回り方式がとられ、特定の個人に権威が集中するのを避ける。構成員は共同の住居に住み、共同の食堂で食べ、すべて共同生活を送る。子供は生後一貫して両親とは別に育てられ、乳児院、幼児の家、保育所、幼稚園、小学校、高等学校で集団主義的な育成が行われる。したがって、キブツの家族には、共同の住居という特徴はなく、経済的機能も教育的機能もないところから、いわゆる「核家族」はキブツには存在しないとされ、家族研究上、論議をよんだ。しかし、子供のパーソナリティー形成の面では、概して理想的な教育が行われていることが社会人類学や予防精神病学の調査研究などで明らかにされており注目された。基本的にはその性格に変化はないが、1980年代ごろから農業だけでなく工業も導入され、その点ではキブツ社会の性格が変わってきているといわれる。
 キブツはこれまで政界の要人を多く輩出し、イスラエル国家に対して貢献してきた点では評価される面もあるが、他方で、アラブ民族との抗争のなかで、国境近くの辺境の地において、その先兵としての役割を果たしてきた点では、その評価は困難であるとする見方もある。しかし、キブツはユートピア思想にもつながった一つの実験でもあるうえに、ユダヤ民族の歴史的経験に基づいて、既存の社会構造に対する否定態としての意味をもっており、家族および子供の教育にとっては、一つの未来像を示している点で、注目されるべき存在である。[渡邊益男]
『M. E. Spiro Children of the Kibbutz(1958, Harvard University Press) ▽H・ダーリン・ドラブキン著、草刈善造訳『もう一つの社会キブツ』(1967・大成出版社) ▽A・リブリッヒ著、樋口範子訳『キブツ その素顔――大地に帰ったユダヤ人の記録』(1993・ミルトス) ▽L・リーグル他著、松浦利明・横川洋訳『キブツの危機と将来――協同組合的な経済・生活様式の変貌』(1996・食料・農業政策研究センター)』

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世界大百科事典内のキブツの言及

【イスラエル[国]】より

…運搬手段としては,イェリコ‐1ミサイル(射程500km),イェリコ‐2ミサイル(同1500km)などがある。
【経済・産業】
 国土が狭く天然資源に乏しいという条件の下で国造りに取り組んだユダヤ人移住者たちは当初,キブツやモシャブmoshavと呼ばれる農村共同体を基礎に自給自足経済の確立に努めた。キブツとは土地・建物を含むすべての資産を共有し,生産・消費・育児などを共同化するという一種のコミューン組織であり,またモシャブとは各戸ごとに割り当てられた農地で家族経営を行うが,灌漑,収穫,貯蔵,出荷,購入などはすべて共同で行うという組合方式である。…

【パレスティナ】より

…すなわち,それはロシア支配下で1880年代以降激化したポグロム(ユダヤ人集団虐殺)を逃れてパレスティナを目ざす入植運動であり,さらに列強の承認のもとでこれをユダヤ人国家の建設という目標に結びつけようとするシオニズム運動の出発なのであった。キブツ(集団農場)が初めてティベリアス湖岸ウンム・ジュニー(のちのデガニヤ)につくられたのは,1909年である。こうして,多角的宗派紛争を操る東方問題的局面とは異なる構造をもつパレスティナ問題が,パレスティナという場の限定を伴いつつ新たに設定されることとなり,第1次世界大戦以降のパレスティナの歴史は,まさしくパレスティナ問題の歴史の中心舞台となるのである。…

※「キブツ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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