キーファー(読み)きーふぁー(英語表記)Anselm Kiefer

デジタル大辞泉 「キーファー」の意味・読み・例文・類語

キーファー(Anselm Kiefer)

[1945~ ]ドイツの画家。ドイツの歴史ナチズムなどを主題に、下地にわらや衣服を貼った巨大な絵画オブジェなど、現代社会への批判・告発を表現した作品で知られる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キーファー」の意味・わかりやすい解説

キーファー
きーふぁー
Anselm Kiefer
(1945― )

ドイツの美術家。バーデン・ウュルテンベルク州ドナウエッシンゲン生まれ。1951年にカールスルーエ近郊のオッテルスドルフに移り、森林地帯で育つ。63~66年、フランス、イタリア、オランダを旅行、リルケゴッホ、ロダンらの作品に親しむ。フライブルクの大学に進学し、当初は法律を学ぶが、フランス、リヨン郊外にあるル・コルビュジエのラ・トゥーレット修道院を見て衝撃を受けたのを機に美術へと転じることを決意。66年にカールスルーエ芸術アカデミーでホルスト・アンテスHorst Antes(1936― )に学び、70~72年デュッセルドルフ芸術アカデミーでヨーゼフ・ボイスに師事した(後には対立するようになる)。69年、カールスルーエのカイザー・プラッツ画廊で初個展開催。77年、ドクメンタ6へ出品し海外でも注目を集め、80年のベネチアビエンナーレで高い評価を受ける。そして87年、全米各地を巡回した後、MoMA(ニューヨーク近代美術館)で開催された回顧展の大成功はキーファーの名を一躍世界的なものとし、東西ドイツ統一後の91年にはベルリンでも大規模な個展が開催された。

 当初キーファーは水彩画を描き、また写真を用いたコンセプチュアル・アート風の作品を制作していた。結婚し長男が誕生した71年ごろより作風に変化が生じ、ドイツや北欧の伝説、ギリシア神話旧約聖書ワーグナー楽劇などからのアレゴリーを主題とする。また画面のなかに藁、砂、灰、鉛などを混入する技法を確立、スケールの大きな絵画作品によって知られるようになった。その画面はいずれも荘厳で悲愴な情感をたたえ、現代美術ではほとんど顧みられなくなっていた「風景」を主題としていることも特徴である。ドイツ文化の鎮魂を意味する「有翼のパレット」も、しばしば描かれるモチーフの一つである。

 国際的な名声を確立した80年代以後は、ゲルハルト・リヒターやジグマール・ポルケと並んでドイツのネオ・エクスプレッショニズムを代表する作家となる。だが、史跡の前でナチス式の敬礼をする姿を撮影し、「反動」「反ユダヤ」と酷評された、初期の代表的写真作品『占領』(1969)を制作したかと思えば、ユダヤ人の詩人パウル・ツェラーンへの深い共感を示した絵画作品『マルガレーテ』(1981)や『ズラミート』(1983)を制作するなど、キーファーの歴史に対する態度は両義的である。写真や絵画のほかにも版画、立体、アーティスト・ブックも手がけるなど、作品のレパートリーは幅広い。

 93年(平成5)には大規模な個展が東京、京都、広島を巡回、軽井沢のセゾン現代美術館や静岡県立美術館に作品が恒久設置されるなど、日本でもなじみが深い。99年には世界文化賞(絵画部門)を受賞している。長年ドイツのオーデンワルトやブッヘンワルトを拠点としていたが、90年代になって南フランスのバルジャックへと移住した。

[暮沢剛巳]

『「特集アンゼルム・キーファー」(『美術手帖』1989年4月号・美術出版社)』『「特集アンゼルム・キーファー」(『ユリイカ』1993年7月号・青土社)』『多木浩二著『シジフォスの笑い――アンセルム・キーファーの芸術』(1997・岩波書店)』『「メランコリア―知の翼―アンゼルム・キーファー」(カタログ。1993・セゾン美術館)』

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百科事典マイペディア 「キーファー」の意味・わかりやすい解説

キーファー

ドイツの美術家。ドナウエッシンゲン生れ。法律家を目指していたが,1966年ル・コルビュジエが設計したラ・トゥーレット修道院を訪ね,美術を志すようになる。1966年から活動を始めるが,ドイツの歴史を検証しようとする作品は,時としてナチズムに言及する点で批判されることが多い。だがこのような自国の近代を歴史の一部として捉え直そうとする姿勢は,さらに北方神話やエジプト・メソポタミア神話,ワーグナー,神学や聖書の歴史にまで及び,錬金術への造詣の深さと相まって重層的な意味を持つ作品群へと結実していった。写真,水彩ドローイング,油彩,立体オブジェとさまざまな素材や手法を混在させ,いずれの作品も重苦しいほどの色彩と圧倒的な物質的存在感を持っている。代表作にヒトラーの無防備な作戦の失敗を取り上げた《あしか作戦》(1975年),約200冊の鉛の本を鉄の書棚に収めた《二つの大河に挟まれし土地(女司祭)》(1986年―1988年)などがある。→新表現主義
→関連項目ロサンゼルス現代美術館

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