日本大百科全書(ニッポニカ) 「クサカリツボダイ」の意味・わかりやすい解説
クサカリツボダイ
くさかりつぼだい / 草刈壺鯛
pelagic armorhead
[学] Pseudopentaceros wheeleri
硬骨魚綱スズキ目カワビシャ科に属する海水魚。千葉県南部沖、八丈島、小笠原(おがさわら)諸島、九州・パラオ海嶺(かいれい)、アリューシャン列島、カリフォルニア沿岸など北太平洋のほか、天皇海山列(アリューシャン列島からハワイの北西に向かって連なる海山)、マリアナ諸島、ハワイ諸島などの海域に分布する。体は長楕円(ちょうだえん)形で側扁(そくへん)する。体長は体高の約2.7倍。近縁種のツボダイよりも体高が低い。体の背部外郭は背びれの起部までは緩く直線状に上昇し、背びれ基底部でなだらかに降下して尾柄(びへい)に達する。腹びれと肛門(こうもん)の間に隆起縁がある。吻端(ふんたん)はとがり、吻長は眼径より長い。両眼間隔域は広くてやや膨出する。口は小さく、上顎(じょうがく)の後端は目の前縁下に達しない。上下両顎にやや細い絨毛(じゅうもう)状の歯がある。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)に歯があるが、口蓋骨にはない。頭部と肩帯部に多くの骨板が露出し、骨板の表面に放射状の隆起がある。頬(ほお)と眼後部および体は粗雑な鱗(うろこ)で覆われる。側線有孔鱗(ゆうこうりん)数は64~83枚。背びれ、臀(しり)びれ、腹びれなどの棘(きょく)は強大であるが、ツボダイよりは短い。背びれ棘部の基底長は軟条部のそれよりも長く、およそ4倍。背びれは13~14棘8~10軟条、臀びれは4棘7~8軟条。尾びれは截形(せっけい)(後縁が上下に直線状)。体色は褐色で、腹方は淡い。稚魚や幼魚の体側には不規則な暗色の模様がある。背びれと臀びれの棘部および腹びれは暗色。水深146~500メートルに生息する。主生息域は北太平洋の水深300~500メートルの平頂海山(頂上部が平らになっている海山。ギヨーともいう)にあり、産卵場は天皇海山列海域にある。1~2年後に成熟して産卵場に戻り、11月~翌年2月ころに産卵する。生まれた稚魚は海流にのって成育場へ移動するが、一部はカリフォルニア沿岸、天皇海山列、伊豆諸島周辺海域などにも到達する。オキアミ類、サルパ、ウキビシガイ、ハダカイワシ類などを食べ、全長40センチメートルに達する。漁場の天皇海山列は1960年ころに開発された。底引網や底刺網(そこさしあみ)で漁獲される。脂が多く含まれた白身魚で、焼き魚、干物などにするとたいへん美味である。特定海域でとれる太ったものをホンツボダイとよび珍重する。また、ツボダイの商品名で売られているものはすべて本種である。
[片山正夫・尼岡邦夫 2021年2月17日]