改訂新版 世界大百科事典 「クリ」の意味・わかりやすい解説
クリ (栗)
Japanese chestnut
Castanea crenata Sieb.et Zucc.
古い時代から果実が食用に供されたブナ科クリ属の落葉果樹。園芸上は堅果(殻果)類に属する。ニホングリともいう。日本,朝鮮半島南部に分布。北海道中部から九州の南端までの山野に自生するシバグリ(柴栗)は栽培グリの原生種。シダレグリvar.pendula Makino,トゲナシグリvar.sakyacephala Makino,ヤツブサグリvar.femina Makinoなどの変種がある。山野に自生,または果樹として栽培される落葉高木。雌雄異花で虫媒花。雌花は殻斗につつまれ,発育して〈いが〉となる。6月ごろ開花し,果実は9~10月に1~3個集まっていがに包まれ成熟する。
栽培
日本のクリ栽培はシバグリを中心に発展し,奈良・平安時代に大果があらわれた。栽培歴は丹波地方(京都府)が最も古いとされる。品種は数が多く,1913年には約500品種が記録されている。果樹園としての面積は大正時代の末期から増加したが,41年ごろに発生したクリタマバチのため生産は減退した。その後,クリタマバチ耐虫性品種の森早生(もりわせ),丹沢,伊吹,筑波(つくば),銀寄(ぎんよせ),石鎚(いしづち),岸根,利平などの普及によって栽培面積は増加している。利平はニホングリとチュウゴクグリの種間雑種である。栽培には結実性,収量,食味,熟期,栽培の難易を考慮して品種を選ぶ。自家不和合性が強いので,開花期の等しい異品種を混植する。施肥は有機質を主に,化学肥料は補助的に用いる。剪定(せんてい)は枝の間引きを主に行う。施肥,剪定ともに12~3月の間に実施する。害虫防除は適期に殺虫剤散布を行う。果実は湿ったおがくず,砂などと混ぜ,冷蔵庫で貯蔵すれば1月末ごろまで貯蔵できる。
利用
古代人の遺跡からは炭化したクリが発掘されている。乾果ではかちぐり(搗栗)が一般的で,奈良・平安の時代から食用に利用され,戦国時代には兵糧として用いられた。現在では栗飯,ゆで栗,焼き栗のほか,ようかん,きんとん,マロングラッセその他各種の菓子原料に用いられる。また,朝鮮では朝鮮漬の原料に用いる。材は建材や家具に,またシイタケ栽培の原木にも利用される。
クリ属Castanea
北半球の温帯域に広く分布し,種子が渋抜きをしなくても食用になるので,日本のクリのほかにも次の3種が栽培されている。
(1)チュウゴクグリC.mollissima Blume.(英名Chinese chestnut)は中国原産で,板栗といい,華北から雲南地方に分布する。天津甘栗あるいは甘栗の名称で市販されている焼き栗は華北の万里の長城周辺地域で生産されたものが天津市に集荷され,そこから輸出されたためにつけられた名前である。渋皮がはがれやすく,焼き栗にしたとき食べやすいが,日本での栽培はクリタマバチ被害のためむずかしい。
(2)ヨーロッパグリC.sativa Mill.(英名European chestnut)は南ヨーロッパから小アジアの原産で,主として地中海沿岸諸国で栽培され,それぞれの産地の国名をつけてよばれることが多い。栽培歴は古く,ギリシア時代以前といわれる。果実はマロングラッセなどの菓子原料や焼き栗に利用。胴枯病に弱いので日本での栽培はむずかしい。
(3)アメリカグリC.dentata Borkh.(英名American chestnut)はアメリカの東部地域原産。1800年代の終りころ東洋から侵入した胴枯病のまんえんで大きな被害を受けた。現在でもその被害から回復していない。果実の利用よりもタンニン製造の原料や建材として重要視された。
執筆者:志村 勲
民俗
クリは縄文時代の遺跡から出土しており,古くから重要な食糧とされた。《延喜式》には丹波,但馬,播磨,美作,備中などからの貢納物として記され,〈干栗〉〈搗栗子〉〈平(ひら)栗子〉などの名称がみられる。かちぐりは〈勝〉に通じ,また〈くりまわし〉がよくなるともいって,正月の縁起物として年神の供物や歯固めに用いられる。戦国時代にも勝利の縁起をかつぎ,かちぐりは戦陣の祝宴にかかせぬものであった。正月のほか,九月節供や十三夜,各地の神社の秋祭の神饌にもクリが供えられた。山村では,クリは救荒食物とされ,クリの木の伐採を禁じてきた所が多い。クリの木を門松にしたり,静岡県の一幡神社のように御榊神事の仮屋を作るのにも用いている例もある。兵庫県では7月の亥(い)の日に田祭を行うが,このとき田にカヤ(萱)やクリの木を立てて供え物をし,クリのような大きな実がなるように祈願する風習がみられる。またクリの木で作ったはしを正月や十五夜に実際に使ったり,初田植や太師講のとき神仏への供物にそえる所もある。クリをめでたいものとする一方で,庄内地方では門松にクリの木は避けるといったり,長野県松本市では勢多賀神社の氏神がクリのいがで目をついたのでクリを作らないという例もある。さらに,屋敷内にクリの木があると栄えないといって嫌う所もある。このほか,生栗を食べると瘡(かさ)ができるとか,双子栗を食べると双子が生まれるという俗信もある。
執筆者:飯島 吉晴
クリ (くり)
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報