エポキシ樹脂(読み)えぽきしじゅし(英語表記)epoxy resin

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エポキシ樹脂」の意味・わかりやすい解説

エポキシ樹脂
えぽきしじゅし
epoxy resin

1分子中に2個以上のエポキシ基をもち、硬化剤または触媒の存在で三次元硬化ができる比較的分子量の小さい合成樹脂の総称。歴史は比較的新しく第二次世界大戦後、金属の強力な接着剤として紹介された。エポキシ樹脂などの原料であるビスフェノールAエピクロロヒドリン(エピクロルヒドリン)とをカ性ソーダ(水酸化ナトリウム)の存在で反応させると、その配合モル比によって異なるが、分子量340~4000程度の第一次樹脂(プレポリマー)が得られる。これには低分子量の粘りのある油状のものから、分子量の大きなもろい淡黄色の固体のものまである。この第一次樹脂は、ジアミン(第二アミン)、トリアミン(第三アミン)やイミダゾール類、または無水フタル酸のような酸無水物を計算量添加すると、たとえば脂肪族アミンでは常温で、または加温するとエポキシ基の開環、それによって生じたヒドロキシ基との反応がおこり架橋結合を生成する。硬化剤や必要に応じて添加する無機質の充填(じゅうてん)剤(フィラー)の種類によって性質の異なった硬化物が得られる。

 いま一つのタイプのエポキシ樹脂としては、o(オルト)-クレゾールホルムアルデヒドとを酸性で反応させて得られた、o-クレゾールノボラック樹脂とエピクロルヒドリンとを水酸化ナトリウムの存在で反応させたクレゾールノボラックエポキシ樹脂がある。これを粉砕してシリカ二酸化ケイ素)と混ぜ、酸無水物類とで硬化させるシステムで電子材料の封止材(湿気、ほこり、衝撃などから保護する材料)として広く使用されている。

 エポキシ樹脂は金属表面との親和性が優れているので、とくに金属の接着剤や塗料として用いられる。硬化の際に揮発性物質の発生や体積収縮が少なく、機械的性質や電気絶縁性が優れ、溶剤に侵されない。硬化物の最高使用温度は、エポキシ樹脂の種類と、各種の硬化剤の組合せで決まり、高いものは300℃くらいまでのものがある。加工方法は注型、封入、含浸後硬化、塗装、接着など多様にわたっている。

 用途は、金属との親和性のよいことから、塗料、金属接着剤に、あるいはガラス繊維や炭素繊維にエポキシ樹脂プレポリマー溶液を含浸させたあと、硬化させた電子機器用銅張り積層板、炭素繊維を用いた航空器材、ゴルフクラブのシャフトや釣り竿(ざお)などから、道路舗装、塩化ビニル樹脂の安定剤など多方面にわたっている。

[垣内 弘]

『橋本邦之編著『プラスチック材料講座 エポキシ樹脂』(1982・日刊工業新聞社)』『垣内弘著『新エポキシ樹脂』(1985・昭晃堂)』『新保正樹編『エポキシ樹脂ハンドブック』(1987・日刊工業新聞社)』『室井宗一・石村秀一著『入門エポキシ樹脂』(1988・高分子刊行会)』『垣内弘編著『エポキシ樹脂最近の進歩』(1990・昭晃堂)』『シーエムシー編・刊『エポキシ樹脂の高機能化と市場展望』(1990)』『垣内弘著『エポキシ樹脂硬化剤の新展開』(1994・シーエムシー)』『室井宗一著『わかりやすいエポキシ樹脂』(1994・工文社)』『シーエムシー編・刊『エポキシ樹脂の市場分析と将来展望』(1994)』『シーエムシー編・刊『環境ホルモン・環境汚染懸念化学物質――現状と産業界の対応』(1999)』『シーエムシー編・刊『高分子添加剤市場('99)』(1999)』『エポキシ樹脂技術協会編・刊『総説エポキシ樹脂』全4巻(2003)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エポキシ樹脂」の意味・わかりやすい解説

エポキシ樹脂
エポキシじゅし
epoxy resin

分子内にエポキシ基2個以上をもつ重合体,およびそのエポキシ基の重合によって生成する熱硬化性樹脂。市販のエポキシ樹脂の大部分は二価フェノール (通常ビスフェノールA) とエピクロロヒドリンとから得られる初期重合体に,適当な硬化剤を加えて架橋反応によって不溶不融の重合体にする。接着性が大で,ガラス,金属などのすぐれた接着剤であり,アラルダイトはその例である。また,機械的性質がすぐれ,耐化学薬品性が大きく,電気絶縁性が大きいなどの性質があるため,密着性,耐化学薬品性,たわみ性などの要求される塗料などに利用される。

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