ゲシュタルト要因(読み)ゲシュタルトよういん(英語表記)gestalt factor(英),Gestaltfaktor(独)

最新 心理学事典「ゲシュタルト要因」の解説

ゲシュタルトよういん
ゲシュタルト要因
gestalt factor(英),Gestaltfaktor(独)

ゲシュタルト法則gestalt lawともいう。視野中に与えられた多数の刺激に対するわれわれの知覚は,なんらかのまとまり,あるいは分離,分節,群化として経験される。これらのまとまりや分節を決定する要因は,視知覚の領域でウェルトハイマーWertheimer,M.によって簡単な図形の例示とともに提唱されたが,その後の研究によりほかの知覚領域,記憶,学習,思考などの領域にも広げられた。

【群化の要因grouping factor】 ウェルトハイマーは1923年の論文の冒頭で次のように述べた。「わたしは窓辺に立ち,1軒の家,木々,空を見ている。さて,仮にいくつかの理論的根拠から数え上げようと試みて,そこには327の明るさや色調があるといえたとしよう。わたしは〝327〞を見ているのだろうか。否,わたしが見ているのは空,家,木々である。〝327〞そのものなどだれも見ることはできないのだ」。すなわち,人が見るのは一定のまとまりであり,一定の分離の仕方である。ウェルトハイマーはこのように,視野の中で図-地が分化し,いくつもの図が生じたとき,それらは無秩序に視野を満たすのではなく,互いにまとまって群を作る(群化grouping)という,知覚の体制化の法則を説いた。彼は,まとまりの原理Prinzipien der Zusammengefasstheitを用いているが,それはシュトゥンプStumpf,C.のまとまりの法則Gesetze des Zusammenfassensという用語の影響である。一般的には,群化の要因ともいわれ,後述のプレグナンツ傾向を含めて,ゲシュタルト要因とよばれる。主要な要因として以下のものがある(図1~6は146ページ)。

近接の要因factor of proximity(図1) 明るさや形など他の条件が一定であれば,近い距離にあるものが群を形成する。図では,14個の黒点ではなく,7対の黒点と知覚される。単語と単語の間に空白をおかずに書いた英文がパズルのようになってしまうのは,この要因による。

類同の要因factor of similarity(図2) 他の条件が一定であれば,同種のものがまとまる。一般に構成要素の数が多いほど効果は大きい。街の中で同じ制服の一団が目立つのは,この例である。

共通運命の要因factor of common fate(図3) 運動または静止をともにするもの同士がまとまる。点の列が静止したままのときは,近接の要因に従って3点ずつのまとまりに見えるが,いくつかの点を矢印の方向に動かすと,動く点と静止した点の2群に見える。

良い連続の要因factor of good continuity(図4) なめらかに連続するものがまとまる。波型adと直線bcが交わっているように見えて,abcdのようにはまとまらない。

閉合の要因factor of closure(図5) 閉じた領域を作るものがまとまる。a-bとc-dがそれぞれまとまるように見える。

客観的構えの要因factor of objective set(図6) 図形が継時的に提示されるとき,その経過の中では一定のまとまりを生じる配置が,別の経過の中では異なるまとまり方をすることを指す。客観的と称するのは,このまとまりが,見る人それぞれの構えではなく,図形の時系列的変化によって規定されて生じることを意味している。図は仮現運動での例を示している。aを第1刺激,bを第2刺激とすると,右の角度が80°以下では右への運動が観察され(①),100°以上では左への運動が観察される(②)。すなわち,前述の近接の要因に従った動きが見える。ところが,角度を30°,40°,50°と順次大きくしていくと,120°になってもなお右への動きが見え,さらに160°でもその見え方が続く場合がある(③)。実験参加者によっては175°になるまで同様の見え方が続いた例が報告されている。

過去経験の要因factor of past experience(図7) 経験を重ねてきたものが,そのようにまとまる。たとえば,図7-1では左の文字列を右のようなまとまりで見ることはまずない。また,314㎝という表記を31と4㎝のように見ることもないであろう。ただし,この効果は他の要因と拮抗するときは弱くなる。たとえば図7-2では,良い連続の要因と閉合の要因によるまとまりが支配的となり,WとMの文字のあることに気づきにくい。

 刺激配置によっては,二つ以上の要因が共存し,群化が同方向に強化される場合もあれば,競合する場合もある。ウェルトハイマーは,知覚における体制化は,与えられた条件内で全体として最も簡潔,単純,統一的などの良い形gute Gestaltの方向に向かって生じるとするプレグナンツ傾向を指摘した。

【プレグナンツ傾向Prägnanz Tendenz】 プレグナンツとは,「簡潔なこと」を意味するドイツ語である。プレグナンツ傾向はプレグナンツの法則law of pregnancyともよばれる。以下,プレグナンツ傾向に関する研究の流れを説明する。

1.ウェルトハイマーの提唱 プレグナンツの概念を提起したウェルトハイマーの1923年の論文では,それに先立つ『自然民族の思考についてÜber das Denken der Naturvölker,I.Zahlen und Zahlengebilde』(1912)を用いて,民族によって,たとえば100を分割するには50や25が「優れた」区切りとされている,というような例を多数挙げて,思考におけるプレグナンツの特徴を記している。シューマンSchumann,F.によれば,1914年のゲッティンゲンでの第6回ドイツ実験心理学会議において,プレグナンツ傾向の現われと見られる知覚現象が,ゲルプGelb,A.ほか多くの研究者によっても報告されたという(Metzger,W.,1975)。ゲルプは,暗室中で3光点を直線上に,同じ時間間隔で,しかし空間距離は変えて呈示すると,観察者にはBがAとCのちょうど真ん中に位置しているように見えることを報告した(図8)。ウェルトハイマーはまた,プレグナンツ段階Prägnanzstufenの概念を示した。これは「優れた,卓抜な」印象を与える基準点を指す。角度を例に取れば鋭角,直角,鈍角である。これらの基準点の間はプレグナンツの性格をもたず,93°は「少し劣る」直角と見られる。図9は三角形のプレグナンツ段階を示す簡単な実験である。点A,Bを固定し,Cのみを点線のように下方に動かしていくと,次々に形の違う三角形が知覚される。その中でプレグナンツといえるものは五つ,すなわち直角三角形二つと二等辺三角形三つである。しかし,プレグナンツ段階の数は,固定的なものではなく,対象への経験を重ねるにつれて増加するものであり,色彩でいえば素人と画家では当然その数に相違が出てくるという。

2.ケーラーKöhler,W.による物理過程への言及 ケーラーはその著書(1969)の中で,ウェルトハイマーの提唱について次のように述べている。「(それは)実際は著名な物理学者によって繰り返し述べられたことと同じである。もちろん当時,そうした物理学者は心理学的事実に言及したわけではなく,純粋な物理学的観察を対象としていた。そうした論述はキュリーCurie,P.やマッハMach,E.に見られる。たとえばマッハは次の疑問を提出した――ある物理的系が平衡状態あるいは定常状態に近づくとき,この変化の方向が系内の素材の分布および力の分布における規則性,相称性および単純性の増大という特徴をもつのはどうしてか。これに対してはごく単純な答えがある。すなわち,そうした規則的な分布が確立されるとき,作用する力の成分のうち,しだいに多くのものが互いに平衡を取るようになる。このことは,そうした状況下で平衡ないし定常状態へと近づくことを意味する。したがって,この作用を通じて系内の分布がより規則的に,単純になるとしても驚くにあたらない」。

3.メッツガーMetzger,W.による例証 メッツガー(1953)はプレグナンツ傾向を「構造の統一性の法則」および「最大秩序の法則」という表現と同義の一般的法則と規定し,われわれの感官における秩序の愛好を示すものとした。図10は重なり合った六角形と十字形に見え,b,c,dの3片から成るようには見えない。すなわちここでは前者の方がまとまりがよく,簡潔で良い形となる。プレグナンツ傾向がとくに明瞭に現われてくるのは,刺激条件や観察条件により,刺激布置と知覚との結びつきが緩められている場合,たとえば呈示時間の短縮,大きさの縮小(図11),照明強度の低減,周辺視などの不利な条件下で図形を観察する場合である。

4.プレグナンツ傾向の量的・質的分析 その後,プレグナンツ傾向の実現とみなされる視覚現象として,図-地分化,図の分節と群化,幾何学的錯視,主観的輪郭,透明視,運動奥行き効果,運動視などが取り上げられた。一方,たしかにプレグナンツ傾向が現象として理解されるとしても,概念の定義に明確性を欠くという批判も生じてきた。すなわち,二つの体制化のうち,いずれがよりプレグナンツ傾向を有するかの決定がもっぱら直観によってなされるだけで,実験的統制のもとでの定式化,さらにはそれに基づく予測という実証的研究の要請が満たされていないという批判である。それに対して,簡潔性,単純性を客観的・量的に測定しようとする試みが生まれた。たとえば,ホックバーグHochberg,J.やパーマーPalmer,S.E.らによって,平面図形の複雑性の測度と見かけの3次元性との関係,図形のもつ冗長度と良い形との関係,対象の「よさ」の判断などの量的分析が行なわれた。他方,質的分析によって定義を明確にしようとする提案がラウシュRausch,E.(1966)によってなされた。彼は知覚研究の枠組みとしてプレグナンツの概念をとらえ,実際の知覚がつねにそこへ向かう傾向を示すような基準として位置づけた。その質的分析は,以下の七つのプレグナンツ観点Prägnanzaspekteとして整理される。いずれもプレグナンツ観点と非プレグナンツ観点とが対になっている。なお,以下ではプレグナンツを形容詞として用いる場合,「プレグナント」と表記する。

⑴法則性Gesetzmässigkeit/偶然性Zufälligkeit プレグナントな形象とはある法則に従って構成されているように見え,それゆえなんらかの秩序があり,調和的かつ一体的である。一方,非プレグナントな形象は,それを構成する要素が「たまたま一緒になっている」という印象を与え,カオスに感じられる。⑵独自性Eigenständigkeit/派生性Abgeleitetheit 前者は「独自な」,「標準となる」という印象を与えるのに対し,後者は「そこから派生してきた」「誘導体」のように感じられる。長方形,円,視空間の主方向である垂直・水平は前者で,平行四辺形,楕円形は後者である。⑶完全性Integrität/欠陥性Gestörtheit 後者は,ある法則性のもとに作られた形象が,本来もつべき何かを欠いていたり,何かが過剰であったり,つまり前者に対してなんらかの過不足のある状態を指している。⑷単純Einfachheit/複雑Kompliziertheit 二つの形象がいずれもある法則をもって構成されている場合,より単純な法則に従っている方がプレグナントである。「より単純な」とは,構成要素の数が少ない,分節を規定する要素の種類が少ない,総称軸が多いなどである。したがって,前者ではその法則性が容易に認められるのに対し,後者では全体の秩序を見抜くのが難しい。⑸充実Reichhaltigkeit/不足Kargheit 構造の豊かさ,分化の程度に対応する。⑹豊富な表出Ausdrucksfülle/弱い表出Ausdrucksschwäche ⑺意味豊富Bedeutungsfülle/意味貧弱Bedeutungsarmut

 このラウシュの提案に対し,シュタットラーStadler,M.ら(1979)による実験的検証が行なわれている。

5.定義の多義性に関するカニッツァKanizsa,G.の考察 カニッツァ(1975)らは,プレグナンツの概念が多義的であり,その曖昧さが未整理のままに扱われていることをゲシュタルト心理学の内側から批判し,以下のように述べている。まず,視知覚は感覚的登録,注意,記憶中に貯蔵された表象との比較,最終的解釈(再認・命名)などの過程を含む。これらは二つの過程に分けられる。①1次過程:視野分節,すなわち統一体としての視覚対象の分離(知覚の視覚的モーメント)。②2次過程:カテゴリー化,再認,意味付与など1次過程で分離されたものの同定と符号化(知覚の認知的モーメント)。プレグナンツの概念は,このうち1次過程に該当すると考えられる。ウェルトハイマーはこの概念をより精緻なものとする必要性を意識してはいたが,彼自身はそれをしなかったので,定義が曖昧なままに残されてきた。その曖昧さは,ゲシュタルト理論家がこの用語にあまりに多くの内容を含めようとしたところから生じている。そこで,それらを次のように整理する。①事実:ある現象的事象がもつ「優れたausgezeichnet」という直接与えられた性質,すなわちある形や構造が秩序をもち,凝集性が高く,調和的で,良いということ(記述的機能)。②過程:事象がでたらめにではなく,ある定義された原理に従って進行するような傾向が存在する。すなわち,平衡状態に至る最終状況へ向かう知覚過程の性質を指す(説明的機能)。これには二つの仮定が想定される。(優れた,卓抜な結果へと向かう傾向。(単純で,経済的な(むだのない),安定した結果へ向かう傾向。このような観点から,カニッツァは従来の研究に対して以下のような反論を呈する。第1に,前述の不利な観察条件下での結果は,定義の明確化に役立つものではない。なぜなら,それらの条件下では「よく見えない」のであり,実際の視覚体験の報告ではなく,カテゴリーという手がかりによる蓋然的解釈と思われるからである。カテゴリーは依拠図形として作用する。第2に,通常の観察条件下におけるプレグナンツ傾向の実現とみなされる現象においても反証例を示すことができる。たとえば,優れた構造的基礎の一つとされてきた「相称性」が,図12,図13の図-地分化に見るように,必ずしも規定要因にならない。ここでは非相称的領域の方が図となり,「凸形の要因」が図の成立に働いている。非感性的完結化,主観的輪郭,透明視などはプレグナンツ傾向の実現とみなされる現象であるが,これらは認知的・論理的な解釈に従うとは限らないので,1次過程と2次過程の効果を分離するのに適している。図14は非感性的完結化(対象が背後で連続して見える現象,つまり背景の知覚)と主観的輪郭が観察されるが,「規則性」は必ずしも必要ではないこと,図15の主観的輪郭と透明視の形成においても,生じる各領域がとくに優れた形になるわけではないことを示している。第3に,概念の明確化を目的とした量的分析の試みも,それらが相称性・規則性の測度に偏っていることが指摘される。ただし,ラウシュの質的分析は,事実としての定義の明確化に役立つと評価される。以上から,1次過程にのみ限定して,上述の仮定(は認められるが,(は否定されると結論する。

6.カニッツァの批判に照らしたプレグナンツの概念 知覚過程の特質としてのプレグナンツ傾向のうち,前述(への反証例は一目瞭然であるが,概念を提唱し継承した人びともおそらく同じ考え方に立っていたであろうと推測される。「規則的・相称的」なものは,この概念を理解させるうえで便利なために,実例として多く用いられたと考えられる。メッツガーが「構造の統一性の法則」「最大秩序の法則」と表現しているのは,カニッツァの意図するところと相違はない。コフカKoffka,K.(1935)も,規則性や相称性のない安定状態の存在を指摘している。次に,不利な観察条件下での結果についての反論であるが,そこには一つの問題点がある。すなわち,それらは2次過程の事象であるとしても,そこでのプレグナンツ傾向の存在を否定できるかという問いである。ウェルトハイマーは,思考過程におけるその存在を示唆してきた。また,彼の挙げたプレグナンツ段階はカテゴリー形成とも関連するものと推測されるからである。 →ゲシュタルト心理学
〔上村 保子〕

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「ゲシュタルト要因」の解説

ゲシュタルト要因
ゲシュタルトよういん
Gestalt factors

心理学用語。ゲシュタルト (形態) をつくる要因ないし群化をいう。まとまりまたは全体の知覚体験を生じさせる条件のこと。多数の刺激が与えられている場合,われわれの体験する知覚内容は,一般にそれら刺激にひとつひとつ対応した個々ばらばらなものではなく,相互に関連をもち,互いに分離しながらもなんらかのまとまりをもつ。このような知覚経験の分離 (分節) とまとまり (群化) を規定する要因のこと。ゲシュタルト心理学の創始者の一人,M.ウェルトハイマーにより,点,線などの簡単な図形を用い,おもに視知覚の領域で確定された。 (1) 近接の要因 (他の条件が一定ならば近い距離のものがまとまって見える──I) ,(2) 類同の要因 (他の条件が一定ならば類似のものがまとまって見える──II) ,(3) 閉合の要因 (互いに閉じ合うものはまとまる傾向がある──III。 ac:bd より ab:cd にまとりまやすい) ,(4) よい連続の要因 (よりなめらかな経過を示すものがまとまりやすい──IV。 ab:cd より ad:bc にまとまりやすい) ,(5) よい形の要因 (単純,規則的,対称的な形になるようにまとまる傾向がある──V。3つの閉じられた部分としてより円と正方形が重なったものとして見る) のほか,共通運命の要因,客観的調整の要因,経験の要因などがあげられている。

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