スイスの医師、博物学者、言語学者。プロテスタントの影響の下に神学や古代ヘブライ語の教育を受けたのち、ブリュージュ、パリ、バーゼルの各大学で医学を学び、25歳で学位を取得。その間ローザンヌ大学でギリシア語を教えた。のちにチューリヒで終生医業を続けたが、アルプスやアドリア海によく旅をし、博物学の資料収集に努めた。その死は、ブラジルに端を発し、チューリヒに及んだペストによったとされる。業績は多岐にわたる。『万有書誌』Bibliotheca Vniversalis(1545~1555)は当時のラテン語、ギリシア語、ヘブライ語の文献に言及し、書誌学の基礎を築いた。また『植物大鑑』Opera botanica2巻(1551~1571)と『動物誌』Historia animalium5巻(1551~1558)は当時の博物学の集大成であり、その刊行は死後にも及び、前者では自ら1500ほどの図を描き、後者では4500ページにわたり動物名を、アルファベット順を原則に配列している。
[大林雅之 2018年6月19日]
スイスの博物学者。チューリヒに生まれ,ブリュージュ,パリ,バーゼルで医学を修めたが,植物学,動物学にも興味を持ち,アドリア海沿岸,アルプスなどを探検,標本収集につとめた。みずから描いた1500もの図を載せた《植物学大全Opera botanica》全2巻(1551-71)では植物の類縁関係が花と果実の精確な描写をもとに探られており,K.vonリンネに影響を与えた。また,大著《動物誌Historia animalium》全5巻(1551-87)は中世の教訓的動物記から近代の動物学書への過渡期を飾るもので,当時知られていたすべての事項を網羅的に叙述しようとする一方,実際の観察事実を重視する立場で記述された動物の外部体制,所在,習性,解剖学的特徴が当代一流の画家の手になる写実的な図とともにまとめられている。また,古典語にも詳しく,《図書総覧》全4巻(1545-55)を編集,出版した。1565年チューリヒを襲ったペスト流行の際に医者として活躍したが,みずから病をえて倒れた。
執筆者:月沢 美代子
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…レオナルド・ダ・ビンチのような学者が何人か化石の一部は古生物の遺物であると述べているにすぎない。16世紀ころはC.vonゲスナー(1516‐65)が《発掘物について》という著書で現代的意味での化石を多く扱っているとはいえ,化石についての議論はその石状物質の説明や形状が他のどんなものに類似しているかを論ずることなどに終始していた。17世紀に入り,化石の成因が論議を呼ぶようになり,生物起源と非生物起源の化石の区別が大いに論じられた。…
…12世紀以後ヨーロッパでも自然誌への関心が高まり,プリニウスの抜粋本が多くつくられたほか,13世紀に入ってバーソロミューBartholomewの《事物の特性について》,ザクセンのアルノルトArnold von Sachsenの《自然の限界について》,カンタンプレのトマThomas de Cantimpréの《自然について》,バンサン・ド・ボーベの《自然の鏡》,アルベルトゥス・マグヌスの《被造物大全》など多くの自然誌を生んだ。この傾向はルネサンス時代にさらに進み,いわゆる〈地理上の発見〉によって珍しい動植物がヨーロッパにもたらされたうえ,印刷技術が進んだので各種の図譜が刊行され,ついに16世紀にゲスナーやアルドロバンディによって正確で網羅的な自然誌が出された。これらの自然研究はそれまでの学問体系(自由七科)になかったもので,これを受けてF.ベーコンは技術誌を含めた自然誌を新しい学問体系の冒頭に位置づけた。…
…おそらく十字軍により,12世紀にはイタリアにもたらされたと思われるが,記録に残るものでは,1554年にトルコ駐在オーストリア大使ブスベックO.G.de Busbecq(1522‐92)がウィーンにもたらしたチューリップが最も古い。しかしこれが世に広まったのはスイスの博物学者ゲスナーの功績で,61年にフッガー家の要請を受けて球根をアウクスブルクへ移植し,《ドイツ植物園誌》(1561)に図版を付して詳述した。現在の栽培種の原種といわれるトルコ産のチューリップがT.gesnerianaと呼ばれるゆえんである。…
…その意味では,自然の多様性または多様な自然物,それぞれの特殊性を明らかにしようとする科学であるということができる。16世紀後半から17世紀にかけて,ゲスナー,ブロン,アルドロバンディ,ドドネウス,チェザルピーノなどの博物学者が輩出したが,その努力のほとんどは鳥類とか昆虫とか魚類といった個別のグループ内の記載と分類に向けられていた。18世紀から19世紀にかけて,折からの帝国主義の台頭に合わせて,珍奇な動植物や未知の秘境を求めて多くの探検旅行が組織され,膨大な量の博物学的知識が蓄積された。…
※「ゲスナー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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