ゲンゴロウ(読み)げんごろう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲンゴロウ」の意味・わかりやすい解説

ゲンゴロウ
げんごろう / 竜蝨
[学] Cybister japonicus

昆虫綱甲虫目ゲンゴロウ科に属する昆虫。日本各地のほか朝鮮半島、台湾、中国、東シベリア分布し、池沼、水田などにすむ。体長35~40ミリメートル。前方の狭まった卵形背面はすこし膨らみ、黒色で鈍い緑色光沢を帯び、雌は背面に細かいしわをもつ。前胸と上ばねの外縁は黄色、体下面と脚(あし)は大部分黄褐色。日本最大の種で、以前は長野県などで食用にしたほど多く、水田地帯の誘ガ灯に集まったが、農薬によって激減した。年1世代、成虫で越冬する。幼虫は細長く、湾曲した鋭い大あごをもち、成虫とともに食肉性、養魚場の稚魚などを襲う。

 ゲンゴロウ科predaceous diving beetles/Dytiscidaeは、世界各地に分布し、およそ3000種が知られ、日本産はおよそ100種ある。体長1~40ミリメートル。普通、卵形か楕円(だえん)形であるが、小さい種には円形のものもある。背腹面とも多少膨れ、触角は細糸状。後脚(こうきゃく)は平たくて内縁に長い刺毛(しもう)を備え、泳ぎに適している。大・中形種の雄では前脚跗節(ふせつ)が丸く広がり、下面に小吸盤を備える。幼虫は細長くて前後が細まるか、または紡錘形で、尾端の呼吸管を水面に出し呼吸する。成虫は上ばねと腹部の間に空気を蓄え、ときどき水面にきて空気をかえる。成虫、幼虫とも肉食で、鋭い大あごから消化液を出し、食いついた獲物を消化し吸収する。大形のものは魚やカエル、オタマジャクシなど、中形種でも地方により稚魚に被害を与える。

 日本産は4亜科に分けられ、ケシゲンゴロウ類にはケシゲンゴロウ属Hyphydrus、チビゲンゴロウ属Bidessusなど、ツブゲンゴロウ類はツブゲンゴロウ属Laccophilusなどの小形種、ヒメゲンゴロウ類にはヒメゲンゴロウ属Rhantus、マメゲンゴロウ属Gaurodytesなど中形の種を含んでおり、ゲンゴロウ類にはハイイロゲンゴロウ属Eretes、シマゲンゴロウ属Hydaticusなど中形種とゲンゴロウ属Cybister、ゲンゴロウダマシ属Dytiscusの大形種が属している。別にコツブゲンゴロウ属Noterusなどは腹面が平たく、別科(コツブゲンゴロウ科Noteridae)とされる。

[中根猛彦]

 2023年(令和5)、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)で特定第二種国内希少野生動植物種に指定され、販売や頒布を目的とした捕獲や譲渡などは原則禁止されている。

[編集部 2023年4月20日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ゲンゴロウ」の意味・わかりやすい解説

ゲンゴロウ (源五郎)
Cybister japonicus

甲虫目ゲンゴロウ科の昆虫。扁平なからだは後方へ広がり,背面は緑光色を帯びた黒色で側縁は黄褐色に縁取られる。体長35~40mm。雄の前脚の先方(跗節(ふせつ))は幅広く,裏側は吸盤になっていて交尾のとき雌を抱くのにつごうよくできている。日本全土のほか,台湾,朝鮮半島,中国,シベリアなどにも分布する。平地から山地までの池や沼,流れの静かな川にふつうに見られたが開発や農薬の影響などでその数は激減した。夏,生息地付近では灯火に飛来する。成虫,幼虫ともに肉食性水中ヤゴ,オタマジャクシ,小魚などの小動物を捕食する。成虫は尾端を水面から出して空気を後方の気門からとり入れ,この空気を上翅と腹部の間に蓄え,水中にいる間はこの空気を気門から再びとり入れて呼吸する。細長い長さ10mmもある卵を水草の茎の中へ産みつける。幼虫のからだの末端節は細長く,これを水面から出して呼吸する。細長い胸脚を使って水中を巧みに泳ぐ。大あごは鎌状で,獲物に食いつき消化液を出して吸収する。水辺の土中に潜って蛹化(ようか)する。1年に1世代で,成虫として越冬する。

 ゲンゴロウ科Dytiscidaeは世界から約4000種,日本から約100種が知られているが,そのほとんどが水生で肉食性である。このため,英名もwater beetle,predacious diving beetleなどと呼ばれる。多くの種は池,沼のような停滞水や渓流にすむが,海岸のタイドプールや地下水など特殊な環境にすむ種も知られる。メクラゲンゴロウMorimotoa phreaticaは体長約3mm,井戸水中に発見される。ゲンゴロウ科の多くは体長10mm以下で,とくにケシゲンゴロウ類,チビゲンゴロウ類は小さい。各地に見られるチビゲンゴロウGuignotus japonicusは体長約2mm。ゲンゴロウに近似の大型種は中国などでは食用とされる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゲンゴロウ」の意味・わかりやすい解説

ゲンゴロウ
Dytiscidae; water beetle; predaceous diving beetle

鞘翅目ゲンゴロウ科に属する昆虫の総称。小~大型の硬い水生昆虫で,体は扁平な卵形で,背腹両面ともに凸レンズ状にふくらむ。頭部は幅広く,触角は糸状で 11節から成る。肉食性のため口器の大腮は鋭く,中空で,獲物の体液を吸うのに適している。肢は遊泳に適し,前・中肢の基節は小さいが後肢のそれはきわめて大きい。脛節は短く扁平で,大きい距があり,跗節とともに長い遊泳毛をそなえる。雄の前肢の 跗節は変形して吸盤になり,雌を保持するのに役立つ。上翅 (翅鞘) は完全に腹部をおおい,後翅は発達し,よく飛ぶ。水中生活にきわめてよく適応し,遊泳は巧みで迅速である。幼虫も水生で,体は細長く,肉食性。世界に約 4000種以上,日本に約 90種を産する。ゲンゴロウ Cybister japonicusは体長 35~40mmの大型種で,体は黒色でやや緑色光沢があり,前胸と上翅が黄色く縁どられる。日本全土,台湾,朝鮮,中国に分布する。

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百科事典マイペディア 「ゲンゴロウ」の意味・わかりやすい解説

ゲンゴロウ

ゲンゴロウ科の甲虫の1種。体長38mm内外,背面は緑黒色で黄褐色の縁取りがある。日本全土,朝鮮,中国,台湾に分布。幼虫,成虫ともに池沼,水田などの水中にすみ,小昆虫やオタマジャクシ,動物の屍肉(しにく)などを食べる。成虫は翅と腹背との間にある空気を呼吸,幼虫は腹端の管状の毛を水面に出して呼吸する。ゲンゴロウ科は全世界に数千種,日本には約100種。近年,水質汚染や開発によって激減した昆虫のグループのひとつで,絶滅危惧II類(環境省第4次レッドリスト)に指定されている。

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「ゲンゴロウ」の解説

ゲンゴロウ
学名:Cybister japonicus

種名 / ゲンゴロウ
目名科名 / コウチュウ目|ゲンゴロウ科
解説 / 池やぬまにすみます。幼虫は夏にあらわれます。
体の大きさ / 36~39mm
分布 / 北海道~九州
成虫出現期 / 一年中

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