古生代カンブリア紀から中生代の三畳紀まで生存した海生の化石動物のなんらかの器官を代表する部分化石。大きさは一般に1mm程度で,主成分はリン酸カルシウムからなる。1856年にロシアのパンダーChristian Heinrich Pander(1794-1865)がラトビア地方のシルル系から魚の歯の化石として報告したのが研究の始まりで,コノドントとは円錐状の歯という意味で錐歯類ともいわれる。外部形態から,円錐状(角状),複歯状,プレート状と大きく三つに分けられる。円錐状のものは古生代前期の地層に多く,最も原始的な形態で,1本の角状の歯からなり,その基底部に基底腔と称される穴があいている。基底腔にはコノドント本体とやや成分を異にする基底板が付着するが,化石化の途中ではずれやすいらしく両者が付着した標本は少ない。複歯状のものは,棒状や葉片状を呈しその上に角状や鋸歯状の歯が多く付着する。それらの歯のうち一般に一つだけは大きく主歯と呼ばれ,その下に基底腔がある。プレート状のものは表面に小歯やこぶ状の突起をもったプレートに葉片状のものが付着する。内部の微細構造も詳細に調べられているが,いずれも薄葉が年輪状になっている。
コノドントは便宜的に外形上の特徴から多数の種や属に分類されているが,これらは一つの種,あるいは複数の種や属が数個ないし数十個体集まって一つの動物体に付着していたとみられる。実際に地層面上に別々の種や属に属する個体が左右ほぼ同数集まって配列された化石も発見されていて,自然集合体と呼んでいる。分類上の位置は魚類か原索動物の歯や硬皮とする説と,環形動物の顎骨とする説がある。また最近はコノドントを体内にもった動物とみられる化石が発見され,それが原索動物に属するという報告もあったりしたが,今日では否定的である。また腕足類などに類似したある種の触手動物の捕食器官と考える説も根強い。このように分類上の位置や器官も不明であるが,汎世界的に分布し,沿岸から遠洋性までいろいろな地層,とくに石灰岩,チャート,ケツ岩中から多量に産出し,形態変化が著しく,地層の詳細な分帯や対比にきわめて有効な化石である。日本では1960年代から研究が進み,かつて古生代と考えられていた地層がコノドントによって中生代の三畳系であることが明らかになったりしている。
執筆者:猪郷 久義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
謎(なぞ)の多い動物の微小な部分化石。1856年にロシアの古生物学者パンダーC. H. Pander(1794―1865)が、バルチック地方の地層から初めて報告した。その分類上の位置については多くの議論がなされてきたが、今日でもなお意見が分かれている。1983年、1986年そして1993年、スコットランドに分布する石炭紀の頁岩(けつがん)から、頭部にコノドント集合体をもつ動物化石が発見された。それらはウナギのような細長い胴と脊索(せきさく)と考えられる組織をもち、コノドント動物とよばれている。コノドント動物を無顎(むがく)類とする考えと、無顎類とは別の動物であるとする見解がある。
コノドントの大きさは200マイクロメートルから3ミリメートル程度で、おもな成分はリン酸カルシウムである。外形から、角(つの)のような単歯型コノドント、複数の角が並んで櫛(くし)のような複歯型コノドント、そして板状のプラットホーム型コノドントに分けられている。歯の付け根にあたる基底部には、窪(くぼ)みがあり基底腔(こう)とよばれる。保存のいい個体では、基底腔に基底板とか基底充填(じゅうてん)物がついている。コノドントの薄片を顕微鏡下で観察すると、成長のあとを示すと考えられる石灰質薄層の年輪状構造が認められる。古生代カンブリア紀から中生代三畳紀までの、さまざまな海成堆積(たいせき)岩から産し、地層を対比するうえで有効な化石である。
[谷村好洋]
『日本化石集編集委員会編『日本化石集6 千葉県房総半島の新第三紀・第四紀超微化石』『日本化石集7 山口県秋吉石灰岩の石炭紀コノドント化石』(1977・築地書館)』▽『猪郷久義著『古生物コノドント――四億年を刻む化石』(1979・日本放送出版協会)』▽『速水格・森啓編『古生物の科学1 古生物の総説・分類』(1998・朝倉書店)』
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…軟体動物では,アンモナイト(セラタイト類)や薄い殻をもつ翼形類に属する二枚貝(ダオネラ,ハロビア,モノチス)が繁栄し,示準化石として重視されている。コノドントは所属不明の化石であるが,層位学上きわめて重要で,これによって三畳紀の地史が大きく解明された。日本の三畳系の分布は著しく狭いとされていたが,近年の研究により,従来古生代後期の地層とされてきた遠洋性の石灰岩,角岩,海底火山岩のかなりの部分が三畳紀に形成されたことがわかってきた。…
※「コノドント」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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