日本大百科全書(ニッポニカ) 「絶滅動物」の意味・わかりやすい解説
絶滅動物
ぜつめつどうぶつ
同一タイプの動物が1頭も生存しなくなった状態をいうが、タイプの分類学上の規模や地域的な規模は、かならずしも一定しないで使用されている。通常は、クアッガEquus quaggaとかバーチェルシマウマEquus burchelli burchelliのように、種または亜種の単位で表現されるが、恐竜とかマンモスなどのように、目または科の段階でまとめて表現されることもある。地域的な規模としては、地球全域の野生、飼育下を問わずに、まったく死滅した状態を意味するが、大陸または国単位で表現されることもある。モウコノウマEquus caballus przewalskiiやシフゾウElaphurus davidianusのように、飼育下のものを除外して、野生のものは絶滅したという表現もされる。この場合、飼育下で増殖したものを野生に戻して、ふたたび野生の個体群が復活することもある。
絶滅は、人類の誕生前からあったことで、新しい種が誕生する背景としてとらえられる。化石でのみ知られている動物たちやマンモスなどは、それぞれの種としての寿命が尽きたり、地形や気候が変化したり、強力な天敵動物が誕生したりして死滅した。しかし、人間の誕生は、その他の動物にとってたいへんな天敵の登場であった。人間は、肉や卵を食物として、皮や羽毛を衣料や住居のために、角(つの)や骨を道具や装身具のために、それぞれ利用してきた。また、人間自身や家畜の安全のため、農作物や財産を守るために駆除された動物たちもいる。農作物をつくったり、家畜を飼うために野生動物の生息場所が狭められた。森林は木材採取と土地利用のために開かれ、湿地は排水路により乾かされ、湖沼や川の水や大気は汚染された。道路や集落により、地上を移動する動物たちの生活圏は細分化され、長期的な生存を阻害されている。さらに、家畜や帰化動物が、先住者に対する天敵や競争相手となって脅かしている。こうして人間が絶滅させた哺乳(ほにゅう)類と鳥類は、17世紀から19世紀までの間は、ほぼ4年に1種の割合であったが、20世紀になってからは1年1種の割合で絶滅が進んだ。多数の動物を支えている熱帯雨林では、昆虫などは人間にその存在を確認されないまま、緑とともに絶滅が進んでいる。
近世になって絶滅した哺乳類としては、家畜のウシの原種のオーロックスBos primigenius(1627絶滅)、ステラーカイギュウHydrodamalis gigas(1768)、クアッガ(1878)、バーバリライオンPanthera leo leo(1922)、シリアノロバEquus hemionus hemippus(1927)などが有名である。タスマニアの肉食有袋類のフクロオオカミThylacinus cynocephalusやニホンオオカミCanis hodophilaxなども20世紀に絶滅したが、その生存に望みをかけている人もいる。1946年に絶滅したと発表されたアホウドリPhoebastria albatrusが1950年に生息を確認された例もある。
絶滅から動物を救うために、1948年に設立された国際自然保護連合(IUCN)や1961年に設立された世界野生生物基金(WWW、1986年から世界自然保護基金)は、保護のための調査、環境保全、種の増殖などを提案し、実施している。各国ではそれぞれ、環境や個々の種の保護に努力している。また、絶滅のおそれのある生物が不必要に他国へ移動されることがないように、それらの輸出入を規制したいわゆるワシントン条約や渡り鳥条約、湿原を守るためのラムサール条約などの国際条約も制定されている。なお、絶滅の危機に瀕(ひん)した野生生物の現状を記録した資料集として『レッド・データ・ブック』がある。
ハワイガンBranta sandvicensisやヨーロッパバイソンBison bonasusなどのように、飼育下で増殖し、絶滅を回避する場合でも、種の個体数のみでなく、その遺伝的な多様性を保有し続けるための管理がされるようになってきた。そのために、成体の維持だけでなく、精子や卵子を凍結保存して多くの遺伝子を存続させる研究もされている。さらに、絶滅した動物について、保存されている標本のDNA(デオキシリボ核酸)を活用したクローン動物としての復原も研究されている。
[祖谷勝紀]
『今泉忠明著『地球絶滅動物記』(1986・竹書房)』▽『五十嵐享平・岡部聡・村田真一著『絶滅動物の予言――生命誕生「35億年目の悲劇」を読む』(1992・情報センター出版局)』▽『プロジェクトチーム編、世界自然保護基金日本委員会監修『失われた動物たち――20世紀絶滅動物の記録』(1996・広葉書林)』▽『今泉忠明著『絶滅動物誌――人が滅した動物たち』(2000・講談社)』▽『今泉忠明著『絶滅動物データファイル』(2002・祥伝社)』▽『加瀬信雄著『滅びゆく動物たち――この生命を人間は守れるか』(2002・青春出版社)』