古くギリシア語では〈踊りの場〉を意味する語であったが,古典期においては,共同体の祭祀で神々に奉納される合唱歌や,市民の冠婚葬祭に歌われる合唱歌,またそれらを歌う合唱隊を指すものとなった。英語のコーラスなどはこの語に由来する。現存する最古のコロス(歌)の歌詞は,前7世紀スパルタの詩人アルクマンが,乙女たちが歌う祭祀歌として作したものであるが,2連一組で同一の律形を繰り返す対応形式を示しており,2組の合唱隊が交互に同一の旋律に従って歌と舞踊を繰り返したと解釈するむきもある。伴奏楽器としては七絃の竪琴(たてごと)が用いられたと思われるが,合唱隊の人数は明らかではない。その後,合唱詩人がギリシア諸地に輩出し,形式も3連一組の複雑な形が一般化したが,詩的想像の雄渾(ゆうこん)にして華麗なることにかけてはピンダロスの右に出るものはない。前5世紀アテナイの悲劇・喜劇はそのような合唱芸術を母体として発展したといわれているが,現存する演劇作品の中でのコロスの役割は,テーバイの老人とかフェニキアの女たちとか,各々の劇構成が要求する劇中の一群ということになっている。ただ歌詞と律格に,伝統的な合唱詩技巧の片影をとどめているにすぎない。アテナイではまた〈ディテュランボスdithyrambos〉と呼ばれる荘大な合唱詩が盛んに上演されたが,その作品は伝わらない。コロスは古典期ポリスの文化的象徴とも目されたが,古典期以降の実態はほとんど知ることができない。
→ギリシア演劇
執筆者:久保 正彰
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…世界各地の民謡などには多声部のものも多く,ロシア民謡や黒人霊歌などはよく知られている。 古代ギリシア劇のコロスはユニゾンによる歌と舞踏が一体となったもので,合唱を意味するラテン語,英語のコーラス,ドイツ語のコールChor,フランス語のクールchœur,イタリア語のコロcoroの語源は,このコロスに由来する。中世には文化的中心でもあったキリスト教の典礼音楽が発達し,初期ポリフォニー音楽が生まれた。…
…前5世紀には文芸の中心がアテナイに移り,悲劇や喜劇が開花する。これは演劇と舞踊と音楽が一体となった総合芸術で,特に音楽的に重要なのはコロス(合唱隊)である。コロスは悲劇の三大詩人アイスキュロス,ソフォクレス,エウリピデスの時代にはほぼ12~15人の集団で,オルケストラorchēstraとよばれる円形の舞台上で歌ったり踊ったりした。…
…思いどおりに事が運んで繁栄の極みにある人間が,幸運に酔いしれ,あるいはみずからの力を過信して,ときには神々に対してさえ示す思い上がった言動,それがヒュブリスで,こうした人間の分をわきまえぬ傲(おご)りや昂(たかぶ)りは,かならずや天罰(ネメシス)を招き,人を破滅させずにはおかないものと考えられた。文学作品では神格化されて,コロスKoros(〈飽満〉)の母とも娘とも,またアテAtē(〈破滅〉)の母とされることもある。【水谷 智洋】。…
※「コロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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