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コロヌス コロヌスcolonus

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

コロヌス
colonus

「農夫」特に「借地農」を意味するが,歴史用語としてはローマ帝国末期の農業生産体制コロナツス制下の土地に緊縛された小作農をいう。したがってコロナツス制はコロヌスを主体とした生産構造である。コロヌスの起源については,(1) 奴隷,解放奴隷およびその子らが小作人化した,(2) 帝国に居住を許された蛮族,あるいは自由人,クリエンテラが滞納などにより長期分益小作人となり徴税の必要上身分を固定された,(3) 東方ヘレニズム諸国に古くから存在した小作制が全帝国に採用された,など諸説があるが,要するに4世紀頃帝国全域に共通して大土地所有者に隷属的な自由人の小作制が存在しており,それがドミナツス体制 (中央集権的な専制君主政国家,一般に末期ローマ帝国の政治体制をさす) 確立期に制度的に固定されたものである。現存する最古のコロヌスに関する勅法は 332年コンスタンチヌス1世 (大帝) によるもので,コロヌスの土地,身分の移動を禁じ,世襲化している。ただし法廷で原告,被告,証人となることができ,奴隷,解放奴隷とは区別される自由人である。土地所有者は強い支配力をもち,彼らを土地とともに売買することができ,一般自由人との通婚も禁じられたが,土地から放逐されることは許されなかった。農業に専従し,現物納で小作料を払い,賦役も負い,貨幣経済からは隔絶されていた。中世農奴の先駆をなすとされる。

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デジタル大辞泉の解説

コロヌス(〈ラテン〉colonus)

ローマ帝政末期の小作人。土地に縛られて移転の自由をもたず、中世ヨーロッパの農奴の先駆的存在とされる。土地付き小作人。

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百科事典マイペディアの解説

コロヌス

コロナトゥス

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世界大百科事典 第2版の解説

コロヌス【colonus】

古代ローマの小作人。共和政末期から史料に現れるが,帝政期に入って奴隷制の占める比重が下がってくるとともに,農業における生産者層としての重要性を増した。帝政初期のコロヌスの地位は地域によって多様であるが,イタリアでは法律上完全な自由人で,地主との契約によってその土地の一部を耕し,期限(通常5年)終了後は土地を離れる自由を持っていた。しかし多くの史料によると,コロヌスはしばしば地代を滞納し,そのために地主に対して従属的な立場におかれるようになり,小作期間も長期化・世襲化していった。

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大辞林 第三版の解説

コロヌス【colonus】

古代ローマの小作人。帝政末期、農地からの移動を禁じられ、かつての奴隷に代わる労働力となった。中世の農奴の起源の一つとされる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

コロヌス
ころぬす
colonusラテン語

ローマ時代の小作人。共和政末期から大土地所有者の所領で使われていた。共和政末期と帝政初期のコロヌスは、契約に基づいて地主から土地を借り、定額の地代を支払っていた。地主との関係は法のうえでは対等であり、通常5年間の小作期間終了後は自由に土地を離れることができた。しかし地主と零細な小作人との間には、圧倒的な社会的、経済的な力の差があり、これが法のうえでの対等な関係を突き崩していったであろうことは疑いない。とくにその重要な契機となったのが地代の問題であった。[坂口 明]

コロヌスの従属化

コロヌスが納める地代は貨幣で支払うことが原則となっていたが、帝政期には生産物での納付がしばしば行われるようになり、属州で普及していた分益小作がイタリアにも取り入れられた。この場合、生産高が地主の利害に直接にかかわるようになるので、コロヌスの労働に対する地主の側からの関与や統制が強まった。また零細なコロヌスは、自らの生産用具や生活必需品を地代納入の担保としており、地代を滞納したときには、それらを地主に取り上げられてしまうこともしばしばあった。この地代滞納は史料上頻繁に現れており、当時のコロヌスの経済的な基盤の弱さをうかがわせる。このようにして生じた負債が、コロヌスの地主への従属化の最大の要因であったことは疑いない。[坂口 明]

コロヌスの実態

帝政前半期は、かつてイタリアをはじめとする諸地方で繁栄した大規模な奴隷制経営がしだいにその比重を減じ、それにかわって小作制が重要性を増した時代であった。この動きと併行して、コロヌスの小作期間は長期化し、5年の期限終了後も双方から解約の意志表示がない場合には契約が自動的に延長されるという慣習的な小作が、法のうえでも認められるようになった。同時にコロヌスの従属化は着実に進行し、3世紀初頭には、戸口調査の際に、地主は、自らの土地にいるコロヌスを奴隷などとともに申告することになっていた。一方属州では、もともと奴隷制よりはなんらかの形態の小作制のほうが優位を占めていた地方が多かったが、その実態は、それぞれの地方の伝統や慣習に応じて多様であった。多くの場合、小作人は世襲的に同じ土地を耕し、その地位はイタリアの場合よりは低かったと思われる。属州の小作人のなかでその状態がもっともよく知られているのは、北アフリカの皇帝領のコロヌスの場合である。これらのコロヌスは、分益地代(作物によって異なるが、だいたい収穫の3分の1)を支払うほか、総小作人(コンドゥクトル)の直営地での賦役を義務づけられていた。この賦役は年間6~12日と定められていたが、総小作人たちは皇帝の代官と結託してこの日数を増やそうとし、コロヌスたちはこれに対して皇帝に直訴している。コンモドゥス帝の回答はコロヌスの言い分を認め、コロヌスを保護しようとするものであった。[坂口 明]

コロナトゥス制の成立

3世紀に入ると、ローマ帝国は全般的な政治的、社会的、経済的な危機にみまわれ、人口の減少、耕地の放棄と荒廃が進み、農業労働力の確保の問題が、土地所有者たちと帝国政府にとって、決定的な重要性を帯びるようになった。すでに2世紀後半に、マルクス・アウレリウス帝は、捕虜としたゲルマン人を農業労働者として帝国内に定住させている。このようななかで、土地所有者たちは、コロヌスを土地にいっそう堅く縛り付けようと努めたに違いない。また帝国政府も、税収の確保のために、大土地所有者や総小作人の利益を優先する立場にたつようになった。以上のような動きは、コロヌスを法的に土地に縛り付ける制度としてのコロナトゥス制colonatusに帰着した。コロナトゥス制成立の契機となったのは、ディオクレティアヌス帝の導入した新しい税制カピタティオ・ユガティオ制であると考えられる。この制度のもとでは、農業労働者を土地に結び付ける必要があり、彼らはその原籍に縛り付けられた。こうして、大土地所有者の土地に登録されたコロヌスは移動の自由を奪われ、それとともに所領主への従属度も強まった。4世紀の多くの法令によれば、コロヌスは所領主の許可なく聖職者や役人になったり財産を売却したりすることは許されず、地代引上げに関する以外は所領主に対して訴訟を起こすこともできなかった。コロヌスの子も親の地位を引き継ぎ、土地に縛られたコロヌスは世襲的な身分となっていた。ただし、コロヌスのなかでも、別に自分の土地をもち自らの名で登録を行った者は、「自由な」コロヌスとして、縛られたコロヌスとは区別されていた。しかし、これらの2種類のコロヌスや、小作人として使われていた奴隷、さらには零細な自作農たちは、法的な地位は異にしながらも、事実上は同様な隷属的農民層を形づくっていたものと思われる。
 コロヌスとよばれる小作人たちは中世初期の西欧にも存在したが、やがて封建的隷属農民の階層のなかに合流していった。[坂口 明]
『浅香正著「大土地所有の発展とコロナート制の成立」(『岩波講座 世界歴史2 古代2』所収・1969・岩波書店) ▽弓削達著『地中海世界とローマ帝国』(1977・岩波書店)』

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世界大百科事典内のコロヌスの言及

【インクイリヌス】より

…自分のものではない場所に住む人々に対して用いられたほか,帝政前半期には,ふつう借家人を意味した。帝政末期のコロナート制においては,コロヌスとならんで土地に縛りつけられた一部の農場労働者がこの名でよばれているが,その実態については諸説がある。【坂口 明】。…

【ラティフンディウム】より

…このうち奴隷制経営は,征服戦争が終わって捕虜奴隷が減少し,奴隷労働力の獲得に要する費用が増大したこと,商品作物の市場事情の悪化,奴隷の集団的使用に適正な規模を超えた所領の拡大,などの諸要因によって次第に重要性を失い,それに代わって小作制が優位を占めるようになった。この変化と並行して,本来自由人である小作人(コロヌス)は,次第に所領主に従属するようになった。3世紀のローマ帝国の全般的危機の中で,大土地所有は,エピボレーや永小作権の獲得,さらには暴力的な横領などを通じてさらに拡大し,同時に大所領は,政治的にも経済的にも都市からの独立性を強めた。…

【ローマ】より

…ディオクレティアヌスが始めた新税制(カピタティオ・ユガティオ制)は全帝国の農地と農民に対してさまざまな現物課税を行った。この税収を確保するために農民や小作人(コロヌス)は農地からの移動を禁じられ,徴税責任者とされた都市参事会員も世襲身分(クリアレスと呼ばれた)とされた。332年の勅法は逃亡したコロヌスを鎖で縛ることを命じた。…

※「コロヌス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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