翻訳|consumerism
消費者主権主義,あるいはその運動の意味であるが,この意味でconsumerismの語がアメリカで使われだしたのは1960年代に入ってからで,ジョンソン大統領の消費者問題特別補佐官ベティ・ファーネスらの造語ともいう。定義は各説あるが,マーケティング学者フィリップ・コトラーは〈売手との関連において買手の権利と力の強化を求める社会運動〉としている。今日の高度大衆消費社会では,取引の大前提である売手(企業)と買手(消費者)の〈対等性〉が失われている。すなわち,急速な技術革新により商品,サービスさらに取引および流通の形態が複雑化し,マーケティング戦略は高度化し,買手である消費者の知識・情報・能力は売手に拮抗することは不可能となり,消費者は弱者の立場に追いやられている。利潤追求を第一とする企業行動により,消費者の生命・財産はおびやかされ,経済的あるいは社会的損失を被っている。こうした考えに立ってコンシューマリズムは,この不当に奪われ侵された消費者の権利を奪回し,人間としての主体性を確立するための宣言であり運動である。
ラルフ・ネーダーRalph Nader(1934- )がゼネラル・モーターズ(GM)社の車の安全性の問題を取り上げ,その社会的責任(いわゆる企業の社会的責任)を厳しく追及したことを契機に,コンシューマリズムは全世界に多大の影響を与えた。この運動と1900年代および30年代の消費者運動との基本的相違点は,後者が単に個々の製品の品質・経済性を問題にしたのに対し,前者はその背後にある企業姿勢および社会的責任を問題にしたことである。これは日本の消費者運動にも大きな影響を与え,告発型の日本消費者連盟等の設立,70年以降の本格的消費者主権確立運動の展開の契機となった。一方,行政の消費者保護施策の推進,企業の消費者問題への対応(消費者問題部門をはじめとする消費者関連部門の設置等)を促進した。この言葉は日本には1968年ころにはじめて紹介されたが,70年から71年になって一般化し,多くの文献等にさかんにみられるようになった。
執筆者:佐藤 知恭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
消費者主義。経済的弱者である消費者の力を強め、社会経済のなかに消費者主権を確立しようとする主張および運動をいう。欧米の場合、コンシューマリズムの展開は、普通、3期に分けられる。第1期は、20世紀初頭から1930年ころまでの萌芽(ほうが)期であり、物価上昇や混ぜ物のある食肉など不正な商品による消費者の利益の侵害を、立法によって保護しようとした時期である。消費者団体の先駆的なものはこの時期に成立している。第2期は、30年代の大恐慌から60年ころまでであり、押し込み販売のような高圧的マーケティングに対する不買運動、商品テストによる情報の提供や消費者教育など、消費者自身による積極的行動の開始、すなわち消費者運動consumer movementの展開の時期である。第3期は、60年ころ以降の消費者主権の確立期であり、ケネディ大統領による消費者の四つの権利、すなわち安全である権利、知らされる権利、自由選択の権利、意思が反映される権利の主張によって思想的基盤が固められ、PL法(製造物責任法)の制定のような法的基盤が整備され、ネーダー弁護士らの急進的企業批判から、じみな啓蒙(けいもう)活動まで幅広い運動が定着していく時期である。コンシューマリズムの展開を促す要因は、基本的には企業側の社会的責任に対する自覚が欠けていることにあるが、一方、技術進歩に対する消費者側の相対的な知識の欠如や、社会的・政治的不満のような構造的緊張要因の指摘もみられる。
[森本三男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新