第二次産業革命とさえいわれるように、コンピュータの目覚ましい開発や普及に伴って、企業や官庁など各分野における事務処理は大きく変化しており、かつては情報処理が人の手によって行われていたものが、今日ではコンピュータが決定的に重要な役割を果たすに至っている。こうした情報化社会の進展に伴って、コンピュータを悪用または阻害するさまざまな行為が出現し、これらがもたらす社会的な影響も大きい。そこで、アメリカ、ドイツなどの先進国では、コンピュータにかかわる特有の反社会的行為に対処するため、コンピュータ犯罪を処罰対象として新設するに至った。
ところで、コンピュータを悪用または阻害する行為のうち、その多くは従来の犯罪類型によって処罰できる。たとえば、事務処理のためのコンピュータや磁気ディスクを物理的に破壊すれば器物損壊罪(刑法261条)にあたるし、コンピュータを悪用して金品など「財物」を取得する場合は、窃盗罪(同法235条)や横領罪(同法252条または253条)に該当する。しかし、従来の刑法はコンピュータによって自動的に情報が処理されることを予想していないため、従来の刑法では対応できなかったり、不十分である場合がみられる。そこで、日本でも、1987年(昭和62)の刑法一部改正において、「電磁的記録」に関する定義規定を設けるとともに、電磁的記録不正作出・供用罪(同法161条の2)、電子計算機損壊等業務妨害罪(同法234条の2)、電子計算機使用詐欺罪(同法246条の2)、電磁的記録毀棄(きき)罪(同法258条・259条)などの罪が新設された。さらに2000年(平成12)、不正アクセス禁止法(不正アクセス行為の禁止等に関する法律)が施行された。
[名和鐵郎]
犯罪例としては、違法な物品や海賊版ソフトウェアなどのインターネットでの販売、メール・電子掲示板・ブログなどでの脅迫・中傷・名誉毀損(きそん)、メール爆弾(特定のメールアドレスに大量あるいは大容量の電子メールを送ること)、クレジットカード番号の盗用、ワンクリック詐欺・フィッシング詐欺、スパイウェアなどを使った個人情報の不正入手、ネットワークを介してシステムに侵入する不正アクセス、ウイルスなどによるコンピュータ破壊などがあり、今後とも増加することが懸念されている。
[編集部]
『日本弁護士連合会・刑法改正対策委員会編『コンピュータ犯罪と現代刑法』(1990・三省堂)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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