横領罪(読み)オウリョウザイ

デジタル大辞泉 「横領罪」の意味・読み・例文・類語

おうりょう‐ざい〔ワウリヤウ‐〕【横領罪】

他人から預かっている物などを、勝手に自分の物としたり売却・処分したりする罪。自分の物であっても、税務署などに差し押さえられつつ、当面保管使用を認められた物を処分した場合はこの罪にあたる。刑法第252条が禁じ、5年以下の懲役に処せられる。単純横領罪

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精選版 日本国語大辞典 「横領罪」の意味・読み・例文・類語

おうりょう‐ざいワウリャウ‥【横領罪】

  1. 〘 名詞 〙 他人から預かっている物を勝手に売却、質入処分したり、遺失物を自分の物として領得したりすることによって成立する罪。刑法第三八章に規定。単純横領罪、業務上横領罪遺失物横領罪などがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「横領罪」の意味・わかりやすい解説

横領罪
おうりょうざい

狭義には、自己占有する他人の物を領得する罪をいう(刑法252条)。刑法第2編第38章は、「横領の罪」として、横領罪(252条)、業務上横領罪(253条)のほか、遺失物等横領罪(254条)を規定しており、広義には、これらすべてを横領罪という。本項で単に「横領罪」とした場合は、狭義の横領罪(単純横領罪)をさす。横領の罪は、物の占有が委託関係(後述)を前提とするか否かによって、学問上、委託物横領罪占有離脱物横領罪とが区別される。横領罪と業務上横領罪が前者に属し、遺失物等横領罪は後者に属する。

 横領罪は、「自己の占有する他人の物を横領」する罪である(刑法252条1項)。また、業務上横領罪は、「業務上自己の占有する他人の物を横領」する場合である(同法253条。「業務」とは反覆または継続して行われる活動であり、必ずしも仕事上や職業上のものに限らない)。これに対して、遺失物等横領罪は、占有離脱物横領罪とよばれるように、「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物」を領得する罪である(その客体には、遺失物、漂流物のように何人(なんぴと)の占有にも属さない場合のほか、他人の物を誤って占有した場合や他人から誤って手渡された場合が含まれる。遺失物法2条参照)。

[名和鐵郎]

横領罪の要件

横領の罪は、日本の刑法では委託物横領罪が基本とされ、その典型が横領罪である。そこで、以下、横領罪について検討する(なお、業務上横領罪も委託物横領罪であるから、以下の説明は共通する)。本罪の客観的要件としては、①自己の占有する他人の物、②委託関係、③横領行為があり、主観的要件としては、判例・多数説によれば、④横領の故意のほか、⑤不法領得の意思を要する。

(1)本罪の客体 その客体は「自己の占有する他人の物」である。ただ、「自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合」(債務不履行や税滞納によって強制執行滞納処分として所有物を差押さえられえたが、債務者や滞納者がこれを保管している場合がこれにあたる。民事執行法123条、国税徴収法60条、61条参照)はこれと同様に扱われる(刑法252条2項)。本罪にいう「物」には動産と不動産が含まれ、その所有と占有はだれに属するかが問題となる。

 この点につき、物の売買における所有権は、契約成立または代金支払いによって売主から買主に移転するから、そののち、引渡し前に、売主が当該目的物を第三者に売却(二重売買)する場合、目的物は「自己の占有する他人の物」に該当し、本罪が成立する。また、株式の売買において売主が債券の担保として代金完済まで所有権を留保している場合には、買主がこれを勝手に処分すれば本罪に該当しうる。これに対して、金銭については、その特殊性から所有と占有とは一体的であるから、金銭(価値)の保管を委ねられた者がこれを領得しても、返還の意思や能力があれば、一般的には本罪は成立しない。しかし、使途目的が特定された金銭や封金(封筒などに入れて封をした金銭)は特定物であるから、これを領得すれば本罪にあたる。

 横領罪の占有には事実上の占有(物を現実に支配していること)のほか、法律上の占有も含まれる。このうち、法律上の占有とは物に対する法的処分権を有する場合であるから、たとえば会社の経理担当者が会社名義預金通帳やキャッシュカードを業務上保管・管理する場合、会社の印鑑や暗証番号を悪用して預金を引き出せば、会社に対する窃盗罪ではなく、横領罪が成立する(この場合は業務上横領罪にあたる)。

(2)委託関係 横領罪は、物の占有につき委託者と受託者との間に委託(信任)関係が存在することを前提として、これに違背して財産的損害を与えることを内容とする。このような委託関係の発生原因は、法令や契約による場合が一般的であるが、慣習や条理に基づく場合も含まれる。

(3)横領の意義 この点につき領得行為説と越権行為説とが大きく対立する。領得行為説によれば、不法領得の意思を要すると解する立場から、横領とは「不法領得の意思」を実現(発現)するすべての行為と解される。ここに「不法領得の意思」とは、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思である。これに対して、越権行為説によれば、横領とは、受託者が、委託の趣旨に反して権限を逸脱する行為を行うことと解される。この点に関して、受託者が一時使用の目的や毀棄(きき)・隠匿の目的で財物を処分した場合、一般的に、前説では不法領得の意思がないとして本罪を否定し、後説では権限を逸脱する場合に本罪が成立するものと解される。ただ、いずれの説によっても、横領行為には、売却、交換、贈与、質入れなどの法律上の処分のほか、消費、着服、返還拒絶、損壊などの事実上の処分も含まれる。

[名和鐵郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「横領罪」の意味・わかりやすい解説

横領罪 (おうりょうざい)

刑法典には〈横領の罪〉として三つのものが規定されている。第1は単純横領罪で,自己の占有する他人の物,または公務所から保管を命ぜられた自己の物(差押えを受けて保管を命ぜられたものなど)を横領する場合(252条。刑は5年以下の懲役),第2は業務上横領罪で,業務上自己の占有する他人の物を横領する場合(253条。刑は10年以下の懲役),第3は占有離脱物横領罪で,遺失物・漂流物その他占有を離れた他人の物を横領する場合(254条。刑は1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料)である。横領罪には未遂を罰する規定はない。

 横領罪の客体たる〈物〉が動産だけでなく不動産をも含むことには異論がないが,電気などは含まないとする説もある。単純横領罪と業務上横領罪は,犯人がその物を占有しているときに成立する。この占有は,窃盗罪の侵害の対象としての占有よりは広いもので,たとえば登記名義が犯人の名義になっている場合をも含む。したがってたとえば,自己の不動産をAに売り,代金も受領したが,登記名義は自己に残されていた場合に,その不動産をBに売り,登記名義もBに移せば(いわゆる二重売買),横領罪となる。また,横領罪は,原則として,他人の物について成立するが,他人の物とは,他人の所有権下に属するものである。この所有権の所在は,民法によって決せられる。しかし,民法上は他人の物とはいえない疑いがあるときでも,横領罪として処罰されることもある。たとえば,封をした金銭を委託された場合には,民法上も他人の物であることに疑いがないが,封もしないで,単に使途を特定して金銭を委託されたような場合には,民法上はそれが他人の所有権下にあるといえるかは,疑わしい。しかし,このような場合でも,横領罪は成立する。反対に,最近では,民法上は他人の物であっても,ただちに横領罪を認めるべきでない,との主張も存在する。たとえば,ある物を月賦で買い,所有権は売主に留保されているのに,月賦完済前に買主がその物を処分した場合などが問題となるが,判例は,この場合も横領罪としている。なお,賄賂を渡すなど不法の目的のために金銭などを委託した場合(不法原因給付)も,所有権は委託者にあり,横領罪が成立する。

 横領罪は,費消着服,売却,貸与など,その物に対する受託者の権限を逸脱したときに成立する。第三者のために領得する場合や,毀棄・隠匿するつもりの場合,あるいはのちに補塡(ほてん)する意思がある場合でも横領となる,というのが判例である。しかし,委託者本人のためにする意思のときは,横領とならない。また,一時使用の意思の場合も横領とならないとする説が強くなっている。

 横領罪,とくに業務上横領罪は,いわゆるホワイトカラー犯罪の典型とされる。単純横領罪と業務上横領罪は,委託物横領罪と総称されることもあり,社会的信頼関係をも破壊するという特徴をもっている。その点,占有離脱物横領罪は信頼関係の破壊をともなわず,そのため,他の二つの罪と比べて法定刑も軽くなっている。しかし,占有離脱物横領罪も他の二つの罪と同じように,他人の所有権を侵害する点に本質がある。したがって無主物については,この罪は成立しない。この罪の客体となるのは,電車内等に遺留された物(遺失物),逃げた家畜,誤って配達された郵便物などである。これに対して,旅館の洗面所等に客が置き忘れた物,飼主のところへ帰る習慣のある家畜,家族全員の旅行中に配達された郵便物などは,占有離脱物ではない。他人がそれを領得すれば,窃盗罪となる。
窃盗罪 →背任罪
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百科事典マイペディア 「横領罪」の意味・わかりやすい解説

横領罪【おうりょうざい】

自己の占有する他人の物,または公務所から保管を命じられた自己の物を不法に領得する罪(刑法252〜255条)。委託物横領(5年以下の懲役),業務上横領(10年以下の懲役),遺失物横領(1年以下の懲役または10万円以下の罰金または科料)に分かれる。
→関連項目企業犯罪窃盗罪背任罪

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「横領罪」の意味・わかりやすい解説

横領罪
おうりょうざい
Unterschlagung

自己の占有する他人の物,または公務所から保管を命じられた自己の物を不法に領得する罪。狭義の横領すなわち委託物横領 (刑法 252) のほかに業務上横領 (253条) ,遺失物横領 (254条) がある。委託物横領は委託信頼関係にそむくところにその本質があり,行為は不法領得の意思の発現であるあらゆる行為を含む。業務上横領は客体が業務委託を受けた物であり,それだけ信頼関係も強度であるため刑が加重される。

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