サリット(その他表記)Sarit Thanarat

改訂新版 世界大百科事典 「サリット」の意味・わかりやすい解説

サリット
Sarit Thanarat
生没年:1908-63

タイ軍人政治家。幼児期における母の実家のあるムクダーハーン(東北地方)での生活が人格形成に影響を与えた。1949年の王宮反乱鎮圧頭角をあらわし,56年47歳の若さで元帥昇進。57年〈革命団〉を組織しクーデタ決行首相(1959-63)に就任し,独裁体制を確立した。1932年の立憲革命人民党革命)以後の議会制民主主義志向から決別し,タイ古来の民族仏教王制からなる〈タイ的原理〉を基本とした家父長的政治を現代に新しく蘇生させようとした。反面,経済的にはアメリカや日本からの外資導入と計画経済を軸に工業化を推進,東北地方を中心とした道路網の完成など,地方開発や教育改革にも力を入れた。約5年間の政治指導はタイ社会を大きく変化させ,今日,サリット改革と呼ぶ人もいる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サリット」の意味・わかりやすい解説

サリット
さりっと
Sarit Thanarat
(1909―1963)

タイの軍人、政治家。1928年陸軍士官学校卒業。1947年ピブンとともに「人民党」左派プリディ政権打倒クーデターに参加。1951年海軍クーデターを鎮圧、実力者として台頭。1954年陸軍司令官兼国防次官に就任、元帥に昇格。1957年9月クーデターでピブンを追放三軍総司令官となる。1958年10月第二次クーデターで憲法廃止、議会解散を断行、軍部独裁体制を確立した。1959年首相に就任。ピブンの経済ナショナリズムにかえ、軍事・経済的対米従属を代価とする工業化を目ざした。

[黒柳米司]

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百科事典マイペディア 「サリット」の意味・わかりやすい解説

サリット

タイの軍人,政治家。1947年のクーデタでピブンを支持,1957年国防相兼陸軍総司令官となったが,同年クーデタによりピブン政権を倒し,軍を背景に国政の実権を握った。1958年再びクーデタを起こし,タノムに代って1959年首相,三軍最高司令官を兼ねた。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「サリット」の解説

サリット
Sarit Thanarat

1908~63

タイの軍人,政治家。1957年クーデタを行いピブーン政権を打倒。58年「革命団」の名による再度のクーデタで首相(在任1959~63)となる。国会を解散して,国王の権威を掲げた強権的支配体制を確立。反共親米政策を基調とし,経済開発計画の実施をはじめとする一連の開発政策により経済成長を実現し,地方に及ぶインフラ整備を行ったが,他方不正に多額の蓄財をした。

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世界大百科事典(旧版)内のサリットの言及

【タイ】より

…しかし,後継の文民内閣が戦後の混乱の収拾に失敗すると,47年のクーデタを契機として再びピブン復帰の動きが現れ,51年には,ピブン独裁体制が再現されるにいたった。ピブンは陸軍,警察両勢力の均衡の上に権力の確立を図ったが,57年,陸軍の指導者サリットのクーデタにより失脚,日本に亡命した。 首相となったサリットは,憲法を廃止し,行政組織を高度に集権化するとともに,数々の要職を兼任して権力を一身に集中化すると,国家開発を最優先の政治目標に掲げて,意欲的な開発政策を推進していった。…

【ラタナコーシン朝】より

…10余年にわたる王政の事実上の空白は,アーナンタの弟で同じくスイスに留学していたプーミポンが9世王として即位することによりようやく埋められることとなった。立憲革命以来著しく低下していたタイ王室の威信は,クーデタによって登場したサリットがとくに60年以降,開発志向の独裁体制を正当化する手段として王室の権威と9世王に対する国民的人気を積極的に利用するようになってから急激な上昇を示すにいたった。王に対する国民的敬慕の念は73年の〈学生革命〉に始まる〈民主化の時代〉を経た今日においても依然として失われておらず,工業化の発展に伴う急激な価値意識の変動のなかにあって,ラタナコーシン朝はタイの政治的安定に一定の役割を果たし続けている。…

※「サリット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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