サルノコシカケ(読み)さるのこしかけ

改訂新版 世界大百科事典 「サルノコシカケ」の意味・わかりやすい解説

サルノコシカケ (猿腰掛)
polypore

キノコのかさ下面の胞子形成部が穴状となったもので,質が硬い種が多いので硬質(多孔)菌とも称する。樹木の幹から突出して生ずる形から名づけられた。担子菌類のサルノコシカケ科のほか,ミヤマトンビマイ科,タバコウロコタケ科,マンネンタケ科の4科にわけられている。世界で50属1500種以上,日本では約40属300種が知られている。分布は亜寒帯,温帯,暖帯,熱帯にはおのおの固有の種があり,ヨーロッパ,アフリカ,北アメリカ,南アメリカ,オーストラリア,アジアの各大陸と東南アジア,マダガスカルの各地にはそれぞれ多数の固有種が分布する。日本ではブナ林に日本特産種が多い。サルノコシカケの宿主は樹木の幹や枝であるが,樹種を厳格に選ぶものは,特定の樹種の分布がない地域には生育しえない。

 径80cmに達する釣鐘状,硬質のツリガネタケ,径1mに達する馬蹄型,硬質のコフキサルノコシカケ,径数cmの個体の集合した瓦状,皮質のカワラタケ,マツタケ状の軟質のニンギョウタケ,樹幹にべったり付着する背着性のアナタケなど形状は多様である。色は白,赤,黄,茶,桃,橙,緑,紫,藍など種にそなわった色調に富むが,新鮮なものと乾燥時では色調に変化のあるものもある。シロカイメンタケは生時には強い黄,橙,桃の色調を示すが,乾燥後は退色して白色となる。コウモリタケは新鮮時は緑,黄,白の色調を示すが,乾燥後は深紅となる。サルノコシカケは菌糸の集合体で,胞子を形成する生殖器官すなわち子実体である。子実体の表面に近い部分をかさ肉と称し,下方部の穴の部分を管孔という。穴の表面に担子胞子を生産する子実層がある。子実層の表面には担子基を形成し,その上に通常4個の担子胞子を生産する。胞子の色,形,表面の状態,大きさなどは種により特徴的である。無色透明,青,黄,茶の色調があり,形は球から円筒形などさまざまで,表面にとげやいぼを有する種もある。大きさは幅0.5~10μm,長さは15μmを超える種もある。

 大部分の種は木質を分解して栄養とする木材腐朽菌である。セルロースリグニン両者を分解する種群と,セルロースを分解し,リグニンを分解しえない種群が存在する。菌類系統学上,前者は進化型といわれる。サルノコシカケの菌糸が木材を侵す場合,生きた樹木のみを侵す生立木腐朽型と,枯死材を侵す枯死木腐朽型,および建築材を侵す家屋腐朽型がある。それぞれ生態の異なる種群が存在するためである。生立木腐朽型のなかには幹の心材または辺材部のみを侵す幹腐朽病と,根株,根を侵す根株腐朽病があり,それぞれ菌の種が異なる。

 装飾品・置物(硬質,大型の子実体),漢方薬(ブクリョウチョレイマイタケ菌核),食用にされ,有毒な種は知られていない。食用にはマイタケ,チョレイマイタケ,トンビマイタケ,マスタケ,クロカワなど比較的軟質なものが利用される。日本の民間薬として用いられてきたが,近年ではこれらに含有される多糖類の免疫増強作用が注目されている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「サルノコシカケ」の意味・わかりやすい解説

サルノコシカケ
さるのこしかけ / 猿の腰掛

担子菌類、サルノコシカケ目サルノコシカケ科・マンネンタケ科・キコブタケ科の菌類のうち、とくに木質で多年生となるキノコを総称した一般名。中国では「猢猻眼(こそんがん)」と書き、本草(ほんぞう)書でも猢猻眼を用いる。立ち木または枯れ木に生え、棚形か馬蹄(ばてい)形に発達し、年々成長を続けて厚さと幅を増す。数十年を経過した巨大なものは径1メートル、厚さ数十センチメートルにも達する。キノコの下面には無数の微細な管孔(くだあな)が密に並び、その内面に胞子をつくる。管孔は1年ごとに新しく下側に形成されるため、キノコを縦断すると管孔部には多くの層が認められる。サルノコシカケは種類が多く、分類には顕微鏡的特徴も加えなければならないが、縦断面の組織(傘の肉)の色で大別すると次のように分けられる。

(1)傘の肉が白色ないし黄白色で、針葉樹に生えるツガサルノコシカケ、エブリコ、オオシロサルノコシカケ、広葉樹に生えるカシサルノコシカケ、ニレサルノコシカケ(いずれもサルノコシカケ科)。

(2)傘の肉が黄褐色で、針葉樹に生えるモミサルノコシカケ、マツノカタワタケ、エゾノコシカケ、広葉樹に生えるコブサルノコシカケ、メシマコブ、キコブタケ(いずれもキコブタケ科)。

(3)傘の肉がチョコレート色で、広葉樹に生えるコフキサルノコシカケ(マンネンタケ科)。

(4)傘の肉が紫黒色で、広葉樹に生えるクロサルノコシカケ(サルノコシカケ科)。

(5)傘の肉が桃色ないし紫褐色で、針葉樹に生えるバライロサルノコシカケ(サルノコシカケ科)。

 これらはいずれも普通にみられる木材腐朽菌で、立ち木に侵入すれば心材または辺材を腐らせ、風倒、風折れの原因となる。こうしたことによって森林は壊滅的被害を受けることがある。また庭木、公園木、街路樹なども、こうした木材腐朽菌によって風折れとなることがあるので警戒しなければならない。ただし、木材腐朽菌が直接に木を枯らすことは少なく、木が材質腐朽病をおこして折れやすくなり、それが枯死の原因となることが多い。なお、サルノコシカケ科のカワラタケには制癌(せいがん)成分が含まれるといわれる。

[今関六也]


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百科事典マイペディア 「サルノコシカケ」の意味・わかりやすい解説

サルノコシカケ

サルノコシカケ科やその近縁のキノコの総称。日本では4科約40属300種が知られ,ブナ林に日本特産種が多い。樹木の幹につき,半円形,木質で厚く堅く,上面には同心円紋があるものが多い。下面には無数の穴があって,内壁に胞子ができる。多くは樹木を腐らす害菌であるが,細工用とし,発汗,利尿などの薬用ともなる。
→関連項目キノコ

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世界大百科事典(旧版)内のサルノコシカケの言及

【薬用植物】より

…たとえばキンミズヒキ(中国名,竜牙草,仙鶴草,バラ科)は中国で収斂(しゆうれん)止血剤として,胃潰瘍に用いられているが,日本へは胃癌に効果があると伝えられて,キンミズヒキさがしが行われたり,栽培もされているという。また,乾燥したサルノコシカケ類を抗癌薬として旅行者が海外で購入し,空港で没収される例がある。これは木材腐朽菌の菌核であるから,生きたまま(乾燥しても胞子が生きていることがある)では輸入禁止品である。…

※「サルノコシカケ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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