サル痘(読み)サルとう(英語表記)Monkeypox

共同通信ニュース用語解説 「サル痘」の解説

サル痘

サル痘ウイルスによる感染症。ウイルスはリスなどの齧歯げっし類が持っていると考えられており、1950年代にサルの感染が、70年には人の感染が報告された。アフリカでは地域的に流行してきた。潜伏期間は5~21日、通常は7~14日で、発疹発熱頭痛、悪寒、喉の痛み、リンパ節の腫れといった症状が出る。感染した人や動物の体液などに触れたり、近距離で長時間飛沫ひまつを浴びたりすると感染する可能性がある。発症予防には天然痘ワクチンが有効とされる。(共同)

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六訂版 家庭医学大全科 「サル痘」の解説

サル痘
サルとう
Monkeypox
(感染症)

どんな感染症か

 ポックスウイルス科、オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスが原因で、感染動物との接触が主な感染経路です。自然宿主(しゅくしゅ)はアフリカのリス属や他の齧歯類(げっしるい)(サバンナオニネズミ、アフリカヤマネ)で、ウイルスが検出されています。プレーリードックは感染すると発症してヒトへの感染源となります。サルは最も感受性が高く、感染すると天然痘(てんねんとう)様の症状が現れます。

 日本にはウイルスがいないため患者の発生はありませんが、米国では2003年にアフリカからの輸入齧歯類を介してウイルスが持ち込まれ、71名の患者が発生しました。

 また、アフリカのコンゴ民主共和国では、毎年100名以上の患者が発生していると考えられています。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)では4類感染症に分類されます。

症状の現れ方

 7~21日(平均12日)の潜伏期間ののち、発疹、発熱、発汗、頭痛、悪寒(おかん)咽頭痛(いんとうつう)、リンパ節の腫脹(しゅちょう)はれ)が現れます。その後、感染局所を中心に発痘し、水泡(すいほう)膿疱(のうほう)痂皮(かひ)(かさぶた)へと進行します。重症例では全身に発痘して、天然痘と臨床的に区別できません。

 致死率はアフリカでの流行では数~10%ですが、米国での流行では死亡例は報告されていません。

検査と診断

 水疱、膿疱、痂皮には多量のウイルスが含まれるため、これらからのウイルス分離、PCR法やLAMP法による遺伝子検出、電子顕微鏡によるウイルス検出、細胞塗抹(とまつ)を用いた蛍光(けいこう)抗体による抗原検出などにより診断できます。

治療の方法

 特異的な治療法はないため、対症療法によります。シドフォヴィルやST­246という薬剤が、サル痘ウイルスを含むオルソポックスウイルスに有効であることが実験的に明らかになっていますが、サル痘患者への投与例はありません。

病気に気づいたらどうする

 患者さんからの二次感染率は数%程度とあまり高くありませんが、発痘患部の痂皮が脱落するまでは接触を避けます。また、患者さんの使用したタオルなどに直接触れないよう注意します。

 米国での流行はペットプレーリードッグ)を介した感染が大部分であったことから、感染源の特定も重要です。種痘(天然痘のワクチン接種)はサル痘にも有効ですが、日本では1976年以降行われていません。

森川 茂

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サル痘」の意味・わかりやすい解説

サル痘
サルとう
monkeypox

動物とヒトの両方に感染するウイルス性疾患で,天然痘(痘瘡)よりは軽いが,似た症状を引き起こす。天然痘や牛痘の病原体と同属のサル痘ウイルスによって感染する。1958年に実験動物のサルから初めて発見され,サル痘と名づけられた。サル痘ウイルスはおもに中央アフリカから西アフリカにかけて生息する霊長類や齧歯類が保有しているが,子供に感染した場合に最も危険であり,集団発生で致死率が 10%に達したこともある。
サル痘ウイルスは,感染した動物にかまれたり,感染した動物の体液に直接接触したりすることで,ヒトに感染する。家族間など長期間にわたって濃厚に接触する場合,ヒトからヒトに感染することもある。ヒトが感染すると,約 2週間の潜伏期間を経て,発熱,頭痛,全身の倦怠感や疲労感,リンパ節腫脹などの症状が現れる。さらに数日後には顔面や四肢に発疹が出て,水疱や膿疱となったあと痂皮となってはがれ落ち,発症から 2~4週間で治癒する。治療は対症療法によって症状を和らげることに限られる。感染者を隔離し,周辺の衛生管理を徹底的に行なうことで,感染拡大は抑えられる。感染予防にはジネオス Jynneos(あるいはインバネックス Imvanex,インバミュン Imvamune)と呼ばれる生ワクチンが有効である。天然痘ワクチンもサル痘ウイルスに対して一定の防御効果がある。
20世紀に天然痘ワクチンの接種が盛んに行なわれていた時期には,サル痘の流行は限定的で期間も短かった。しかし,1980年に天然痘が根絶され,世界規模のワクチン接種が終了して以降,コンゴ民主共和国をはじめとする中央アフリカ・西アフリカ諸国で大規模かつ長期にわたるサル痘の流行がみられるようになり,動物を介さないヒトからヒトへの感染も増加した。さらに,サル痘ウイルスに感染したアフリカオニネズミ,フサオヤマアラシ,コンゴキリスなどの動物が「外来のペット」としてアフリカから持ち出されるようになった。アメリカ合衆国では,飼育されていたプレーリードッグがアフリカから輸入したペットによりサル痘に感染し,それがヒトへと感染した例が報告されている。なお,天然痘ワクチンを接種することによって,サル痘ウイルスに曝露する可能性の高い獣医師やその他の動物を扱う職業に従事する人々の感染をある程度防止できると考えられている。
2022年5月以降,サル痘流行地域への渡航歴のない患者がヨーロッパやアメリカなどで発生し,その後 75ヵ国から 1万6000件以上の症例が報告された。世界保健機関 WHOは同 7月23日,「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し,警戒を呼びかけた。日本国内では同 7月25日に感染者が初めて確認された。その後,同年秋以降の世界の新規感染者の減少傾向をうけて,WHOは 2023年5月11日,緊急事態の終了を宣言した。2022年1月1日から 2023年5月11日までに 111ヵ国・地域で 8万7000人以上の感染と,140人の死亡が報告された。

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