サル痘(読み)サルとう(英語表記)Monkeypox

六訂版 家庭医学大全科「サル痘」の解説

サル痘
サルとう
Monkeypox
(感染症)

どんな感染症か

 ポックスウイルス科、オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスが原因で、感染動物との接触が主な感染経路です。自然宿主(しゅくしゅ)はアフリカのリス属や他の齧歯類(げっしるい)(サバンナオニネズミ、アフリカヤマネ)で、ウイルスが検出されています。プレーリードックは感染すると発症してヒトへの感染源となります。サルは最も感受性が高く、感染すると天然痘(てんねんとう)様の症状が現れます。

 日本にはウイルスがいないため患者の発生はありませんが、米国では2003年にアフリカからの輸入齧歯類を介してウイルスが持ち込まれ、71名の患者が発生しました。

 また、アフリカのコンゴ民主共和国では、毎年100名以上の患者が発生していると考えられています。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)では4類感染症に分類されます。

症状の現れ方

 7~21日(平均12日)の潜伏期間ののち、発疹発熱、発汗、頭痛、悪寒(おかん)咽頭痛(いんとうつう)、リンパ節の腫脹(しゅちょう)(はれ)が現れます。その後、感染局所を中心に発痘し、水泡(すいほう)膿疱(のうほう)痂皮(かひ)(かさぶた)へと進行します。重症例では全身に発痘して、天然痘と臨床的に区別できません。

 致死率はアフリカでの流行では数~10%ですが、米国での流行では死亡例は報告されていません。

検査と診断

 水疱、膿疱、痂皮には多量のウイルスが含まれるため、これらからのウイルス分離、PCR法やLAMP法による遺伝子検出、電子顕微鏡によるウイルス検出、細胞塗抹(とまつ)を用いた蛍光(けいこう)抗体による抗原検出などにより診断できます。

治療の方法

 特異的な治療法はないため、対症療法によります。シドフォヴィルやST­246という薬剤が、サル痘ウイルスを含むオルソポックスウイルスに有効であることが実験的に明らかになっていますが、サル痘患者への投与例はありません。

病気に気づいたらどうする

 患者さんからの二次感染率は数%程度とあまり高くありませんが、発痘患部の痂皮が脱落するまでは接触を避けます。また、患者さんの使用したタオルなどに直接触れないよう注意します。

 米国での流行はペット(プレーリードッグ)を介した感染が大部分であったことから、感染源の特定も重要です。種痘天然痘のワクチン接種)はサル痘にも有効ですが、日本では1976年以降行われていません。

森川 

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)「サル痘」の解説

サル痘
さるとう
monkeypox

サルの天然痘。サルポックス症ともよばれていた。牛痘ウイルス、天然痘ウイルスと同じポックスウイルス科のサル痘ウイルスが病原体で、ウイルスは1958年にヨーロッパのサルから発見された。その後、アフリカのサルの間で流行していることや、コンゴ民主共和国などアフリカ中・西部で多数の人の患者がでていることがわかった。症状は天然痘に非常に似ており、発熱し、顔や全身に発疹(はっしん)がでる。天然痘ワクチン以外にはとくに有効な治療法はない。アフリカでは死亡率が10%程度で、天然痘より低い。2003年6月、アメリカ疾病対策センター(CDC)がアメリカ中西部のウィスコンシンイリノイなど3州で患者19人が発生したことを発表し、注目を集めた。7月には6州81人に広がったが、ペットのプレーリードッグ(リス科)が感染源とみられること、さらにプレーリードッグのウイルスは、テキサス州の輸入業者の施設でいっしょに飼育されていたガーナ産のペット用ガンビアネズミなどから感染した疑いが強いことがわかった。プレーリードッグに関して、日本では厚生労働省が03年(平成15)3月、ペストの国内への侵入防止を目的として輸入を禁止している。

[田辺 功]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「サル痘」の解説

サル痘
サルとう
monkeypox

動物とヒトの両方に感染するウイルス性疾患で,天然痘(痘瘡)よりは軽いが,似た症状を引き起こす。天然痘や牛痘の病原体と同属のサル痘ウイルスによって感染する。1958年に実験動物のサルから初めて発見された。サル痘ウイルスはおもに中央アフリカから西アフリカにかけて生息する霊長類や齧歯類が保有しているが,子供に感染した場合に最も危険であり,集団発生で致死率が 10%に達したこともある。
サル痘ウイルスは,感染した動物にかまれたり,感染した動物の体液に直接接触したりすることで,ヒトに感染する。家族間など長期間にわたって濃厚に接触する場合,ヒトからヒトに感染することもある。ヒトが感染すると,約 2週間の潜伏期間を経て,発熱,頭痛,全身の倦怠感や疲労感,リンパ節腫脹などの症状が現れる。さらに数日後には顔面や四肢に発疹が出て,水疱や膿疱となったあと痂皮となってはがれ落ち,発症から 2~4週間で治癒する。治療は対症療法によって症状を和らげることに限られる。感染者を隔離し,周辺の衛生管理を徹底的に行なうことで,感染拡大は抑えらえる。感染予防にはジネオス Jynneos(あるいはインバネックス Imvanex,インバミュン Imvamune)と呼ばれる生ワクチンが有効である。天然痘ワクチンもサル痘ウイルスに対して一定の防御効果がある。
20世紀に天然痘ワクチンの接種が盛んに行なわれていた時期には,サル痘の流行は限定的で期間も短かった。しかし,1980年に天然痘が根絶され,世界規模のワクチン接種が終了して以降,コンゴ民主共和国をはじめとする中央アフリカ・西アフリカ諸国で大規模かつ長期にわたるサル痘の流行がみられるようになり,動物を介さないヒトからヒトへの感染も増加した。さらに,サル痘ウイルスに感染したアフリカオニネズミ,フサオヤマアラシ,コンゴキリスなどの動物が「外来のペット」としてアフリカから持ち出されるようになった。アメリカ合衆国では,飼育されていたプレーリードッグがアフリカから輸入したペットによりサル痘に感染し,それがヒトへと感染した例が報告されている。なお,天然痘ワクチンを接種することによって,サル痘ウイルスに曝露する可能性の高い獣医師やその他の動物を扱う職業に従事する人々の感染をある程度防止できると考えられている。
2022年5月以降,サル痘流行地域への渡航歴のない患者がヨーロッパやアメリカなどで発生した。その後 75ヵ国から 1万6000件以上の症例が報告され,世界保健機関 WHOは 7月23日,「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し,警戒を呼びかけた。日本国内では同 7月25日に感染者が初めて確認された。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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