シジミチョウ(読み)しじみちょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シジミチョウ」の意味・わかりやすい解説

シジミチョウ
しじみちょう / 小灰蝶

昆虫綱鱗翅(りんし)目シジミチョウ科Lycaenidaeの総称、またはヒメシジミPlebejus argusの旧和名。現在ではもっぱら前者の意味に用いられる。

 シジミチョウ科に属する種類は小形で、日本産のものではもっとも大形なものでもモンシロチョウよりはずっと小さい。はねの色彩、斑紋(はんもん)は多種多様で、裏面に複雑な斑紋をもつ種が多い。その表面の色彩も赤色、橙黄(とうこう)色、紫色、青藍(せいらん)色、金緑色、銀白色、黒褐色と変化に富む。幼虫はワラジムシ形で特徴があり、多くの種は第7腹節の背面中央後縁に開口する蜜腺(みつせん)をもっている。アリは、この蜜腺から分泌される蜜をとくに好むため、幼虫に群がることが多い。この場合、幼虫に群がるアリは天敵から幼虫を守る役をするので、両者は相利共生の関係にあるといわれる。しかし、アリを取り除いても幼虫は正常に育つので、その成育にアリが不可欠というわけではない。クロシジミの幼虫は初めは樹上アブラムシの分泌する蜜をなめて育つが、3齢まで育つと、クロオオアリがその巣中に幼虫を連れ込み、餌(えさ)を与えてこれを育てる。ゴマシジミオオゴマシジミの幼虫も食草を食べて3齢まで育つと、クシケアリによってその巣中に運び込まれ、そのあとはアリの幼虫や卵を食べて育つ。これらの3種のシジミチョウの場合は、特定のアリがいなければその生活は成り立たない。

 周年経過は、年1化あるいは多化性、越冬は卵、幼虫、蛹(さなぎ)、成虫のすべての段階で行われるが、越冬態はそれぞれの種によって定まっている。一般のシジミチョウ類の幼虫は双子葉植物(木本、草本)の新芽や新葉、花蕾(からい)や実などを食べて育つのが普通であるが、タケ、ササなどに寄生するアブラムシを食べて育つゴイシシジミのような純肉食性の幼虫もある。単子葉植物を食草とするものは日本産にはない。

[白水 隆]

分類

日本産のシジミチョウ科は、普通次の5亜科に分類される。

(1)ミドリシジミ亜科Theclinae(英名hairstreaks) 日本産のものではムラサキシジミの仲間(2属3種)、ミドリシジミの仲間(13属24種)、カラスシジミの仲間(1属4種)、コツバメトラフシジミの仲間(2属2種)、キマダラルリツバメなどが含まれる。後ろばねに細い尾状突起をもつものが多い。日本産のものはすべて森林生。

(2)ベニシジミ亜科Lycaenidae(英名coppers) 日本産はベニシジミの1種のみ。草原生。

(3)ヒメシジミ亜科Polyommatinae(英名blues) ヒメシジミの仲間(3属4種)、ルリシジミの仲間(2属7種)、ゴマシジミの仲間(4属5種)、ツバメシジミの仲間(3属4種)、ヤマトシジミの仲間(2属3種)、ウラボシシジミの仲間(1属2種)、アマミウラナミシジミの仲間(1属2種)のほか、クロシジミ、ウラナミシジミ、オジロシジミなどが含まれる。主として草原生、一部森林生のものを含む。

(4)ゴイシシジミ亜科Miletinae この亜科は本来、熱帯から亜熱帯性のもので、日本産のゴイシシジミは例外的に北方に進出したものである。森林生。

(5)ウラギンシジミ亜科Curetinae この亜科は東洋熱帯特産のカレチス属Curetisの1属を含むのみ。シジミタテハ科に似た特徴があり、独立の1科とされることもある。日本のウラギンシジミはこの亜科の北限種。

[白水 隆]


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改訂新版 世界大百科事典 「シジミチョウ」の意味・わかりやすい解説

シジミチョウ (蜆蝶/小灰蝶)

鱗翅目シジミチョウ科Lycaenidaeに属する昆虫の総称。大部分は小型であるが,一部に中型種を含む。開張1.4~6.5cm。世界に約5500種が知られる。日本には,アカシジミウラギンシジミウラナミシジミゴイシシジミ,トラフシジミ,ミドリシジミヤマトシジミなど約70種が土着している。小さなシジミ(貝)を開いたような感じにその名の由来がある。青,緑,赤などの美しい金属光沢をもつ種類が多いが,一般に雌の色彩はじみである。多くの種では後翅の膜の一部が細長く伸びて尾状突起となっているが,アゲハチョウ科などの場合と違って,その中に翅脈が通っていない。なかにはその尾状突起が2本となるものや3本となるもの(台湾産のミツオシジミなど)もある。カラスシジミ類では雄の翅の一部に鱗粉のない部分(性標)が現れる。雄では雌に比べて前脚が退化しており,つめを失って歩行の役に立たなくなっているものが多い。

 生息地はさまざまで,森林にすむムラサキシジミ類,ミドリシジミ類,カラスシジミ類など,草原や荒原にすむベニシジミ類,ヒメシジミ類などがあり,その範囲は熱帯多雨林から砂漠やツンドラに及ぶ。

 多くの種では好んで花を訪れてみつを吸うが,種によっては動物の排出物や死骸に集まることも多い。成虫の飛び方は活発で,ミドリシジミ類やカラスシジミ類などの雄は枝先になわばりをつくり,その付近を飛ぶ同種の個体や他の昆虫を追跡して,またもとの位置に舞い戻る。雌は産卵に際して,食樹または食草の上を歩き回って念入りに産卵場所をさがし,1個ずつ,または多数の卵をかためて産卵する。なかには特殊な場所に産卵するものもあり,例えばムモンアカシジミの場合では,産卵する木は幼虫の食物となる特定のアブラムシ類(クリオオアブラムシなど)とこれと結びつく特定のアリ類(クサアリモドキなど)がすみついているものに限られ,アリの通路の近くに産卵するといわれている。ゴイシシジミの場合には,幼虫の食物となるタケノアブラムシの密集するササ類の葉裏に産卵する。

 卵は底面が平らなまんじゅう型で,上部の中央に精孔があり,表面には細かい点刻模様が発達し,ポンポンダリアのような花弁状の突起をもつものや全体が細かい針状突起に覆われるものなどがある。

 幼虫はやや扁平なずんぐりしたワラジムシ型で体表には微毛が密生し,頭部は小さく,前胸部に押し込められて外からはほとんど見えない。幼虫は食樹または食草の新芽や葉ばかりではなく,花や若い果実を食べるものも多い。アフリカ産のコケシジミ類は,一般のチョウが被子植物のみを食べるという常識を破ってコケ植物を食べている。肉食性のものには,前述のアブラムシ類を食べるもののほか,幼虫が特定の種のアリによってその巣の中に運ばれ,アリの幼虫を食べるゴマシジミ属や,幼虫がアリの口から吐き出される物質によって育つクロシジミなどもある。さなぎは帯糸をもつ帯蛹(たいよう)。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シジミチョウ」の意味・わかりやすい解説

シジミチョウ
Lycaenidae

鱗翅目シジミチョウ科に属する昆虫の総称。小型のチョウで,頭部は小さく,触角は相接して生じ,複眼の周囲と触角各節端は白色鱗粉で縁どられる。雄の前肢は短く,跗節は退化して1節となり,爪を欠くかまたは1本ある。雌では正常で,跗節は5節から成り,爪は2本ある。後翅に細い尾状突起のある種が多い。幼虫はなんらかの形でアリと関係をもつ種が多く,なかにはアリの巣内に入ってアリに養われたり,アリの幼虫を捕食する種もある。全世界で 3000種以上を産し,特に熱帯および亜熱帯に多く分布している。美麗種が多く,ミドリシジミ属 Neozephyrusやその近縁の属は,雄の翅表に金緑色鱗粉をもつ種を中心に愛好者の多い類である。また,雄の翅表に青灰色鱗粉をもつ属も収集家が多く,特にヒメシジミ属 Plebejusやミヤマシジミ属 Lycaenidesに属するヒメシジミ P. argus,ミヤマシジミ L. argyrognomon,アサマシジミ L. subsolanaなどは分布が局地的で変異が多い。ヤマトシジミ Pseudozizeeria mahaは人家や田畑付近に普通な種で,翅表は雄では青藍色,雌では暗褐色。裏面は灰白色ないし暗褐色で小黒斑がある。幼虫はカタバミを食べる。本州,四国,九州,南西諸島に分布し,近縁種が多い。ツバメシジミ Everes argiadesは前翅長 14mm内外の小型種で,雄の翅表は紫藍色,雌では黒褐色。裏面はともに白色で,小黒点と褐色斑をもち,後翅外縁には赤色斑がある。また後翅に糸状の尾状突起がある。食草はマメ科植物で,特にシロツメクサ,コマツナギなどを好む。北海道,本州,四国,九州に産し,ユーラシア大陸に広く分布する。

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百科事典マイペディア 「シジミチョウ」の意味・わかりやすい解説

シジミチョウ

鱗翅(りんし)目シジミチョウ科の総称。小型のチョウばかりで,最大種でも開張50mmを越えない。チョウ類中最大の科で全世界に約3000種,日本にも約60種いる。幼虫は一般に扁平でナメクジ状,体から甘液を分泌してアリを誘い,アリに保護されるものが多いが,さらにアリの巣中に運びこまれ,これに養ってもらう種類もある。またアブラムシ類,カイガラムシ類,ヨコバイ類などを食べる肉食性の種類もあり,地衣類を食べる種類も知られる。成虫は年1回または数回発生し,食草の自生地からあまり遠くに移動しないが,一部の種類は風によってかなり遠距離まで移動する。

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世界大百科事典(旧版)内のシジミチョウの言及

【シジミタテハ】より

…世界に約1000種が知られ,その大部分は新大陸に分布し,日本には産しない。シジミチョウ科に近縁であるが,タテハチョウ科との類縁を示す特徴も見られる。南アメリカの熱帯には赤,黄,緑,青などの金属光沢に輝く美しい種が多く,なかには数本の長い尾状突起をもつものや,翅の大部分が透明になったものもある。…

【チョウ(蝶)】より

…幼虫がニレ科のエノキ類を食べることは共通している。(10)シジミタテハ科 小型種が多く名まえのようにシジミチョウとタテハチョウの両方に似た形質をもっているが,よりシジミチョウに近いと考えられる。翅の形には変化が多く色彩も多様で美しいものが多い。…

※「シジミチョウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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