改訂新版 世界大百科事典 「シナノキ」の意味・わかりやすい解説
シナノキ
Japanese linden
Tilia japonica (Miq.) Simonk
日本の山地に自生するボダイジュに似たシナノキ科の落葉高木で,高さ20m,直径60cmに達する。葉は互生し,長さ2.5~5cmの長い葉柄を有し,膜質ないし紙質,やや円心形,長さ5~8cm,先端は短くとがり,基部は斜心形,ふちに単鋸歯があり,裏面は脈腋(みやくえき)および脈基に毛束があるほか毛はなく,葉の表は深緑色で裏は灰白色。6月中頃,下垂性の散房状集散花序を葉腋から出し,小さい淡黄色の花をつける。花序には狭い舌状で長さ5cmぐらいの苞葉を有する。萼片は長さ3~4mm,内面に密に,外面にまばらに短圧毛がある。花弁は広倒披針形で長さ約5mm。おしべは花弁と同長,仮雄蕊(かゆうずい)は花弁より小型である。果実は球形で径5mmぐらい,表面は灰色の短毛で密におおわれている。日本(北海道~九州)の特産。材は軽軟で工作しやすく,ベニヤや各種の細工材にする。樹皮は繊維が強く,耐水性があり,縄,畳糸のほかに粗製の布もつくられた。蜜源植物としては質が良い。
シナノキ科Tiliaceaeは50属450種からなり,多くは木本で主として熱帯に分布する。樹皮の靱皮繊維がよく発達し,ジュートのように繊維植物として栽培されるものもある。材はベニヤ用,ときとして観賞用となるものがある。アオイ科に近縁であるが,おしべの葯室が2室であることで区別される。
ヘラノキT.kiusiana Mak.et Shiras.はシナノキに比し,葉は卵状長楕円形または狭卵形,葉柄は長さ8~15mmで短いので区別できる。近畿地方から九州まで分布する。本州中部から北海道まで分布するオオバボダイジュT.maximowicziana Shiras.は葉は大きく,長さ10~14cmに達し,葉脈の脈腋に毛束がある。寺院によく植えられるボダイジュT.miqueliana Maxim.は葉は長さ5~10cmで裏面には灰白色の淡毛を密生する。中国の原産で果実を数珠とする。セイヨウシナノキT.×europaea L.はヨーロッパに広く分布するナツボダイジュT.platyphyllos Scop.とフユボダイジュT.cordata Mill.の雑種といわれ,英名をcommon lindenという。シューベルトの歌曲にうたわれる菩提樹すなわちリンデンバウム(独名Lindenbaum)はナツボダイジュのことで,セイヨウシナノキとともにヨーロッパでは数世紀前から日陰樹または並木として植栽され,ベルリンのウンター・デン・リンデンの並木は名高い。
執筆者:初島 住彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報