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シミュレーショニズム simulationism

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

シミュレーショニズム
simulationism

1983年ごろからニューヨークで発生し,85,86年に話題に上るようになり,世界的に広がった,90年の芸術の動向。幾何学的抽象を多く用いたところから,当初ネオ・ジオとも呼ばれたが,指している内容は同じである。高度資本主義社会の本質を,オリジナルとコピーの差異が消失しているところに見て,一切の現実が既にシミュレーションであることを示そうとする傾向であり,フランスの社会思想家 J.ボードリヤールの著作をはじめとするポスト構造主義の思想に直接的・間接的に深い影響を受けている。これ以前の表現主義的身振りを拒否しているところが共通点といえるだろう。また,フェミニズムの見地から制作する女性作家が増加したところにも特色がある。 P.ハリー,J.クーンズ,B.クルーガー,J.ホルツァーらがいる。

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知恵蔵の解説

シミュレーショニズム

1980年代に、成熟する米国の大量消費文化の中で、オリジナルよりもコピーとしての複製品に、より強い現実感を求める社会的な動向をとらえて誕生した考え方。フランスの批評家ジャン・ボードリヤールなどが唱えた、あらゆるものを記号化されたシミュラクル(擬態)ととらえる考え方などに触発された。一般的には、メディアで使い古された映像や有名な絵画作品などから、イメージを意識的にアプロプリエーション(盗用)するなどした美術運動。切り刻むという意味のカットアップや、同一表現を反復するリミックス、既存イメージを流用するサンプリングなどの手法を駆使した作品が生まれた。映画のような一場面を自ら演じて撮影したシンディー・シャーマンや、ネオ・ジオメトリック・コンセプチュアリズム(新幾何学概念主義)を略したネオ・ジオのグループのピーター・ハリーやジェフ・クーンズらも含まれる。日本では美術評論家の椹木野衣(さわらぎ・のい)が『シミュレーショニズム』(91年)を著して、若い美術家に影響を与えた。

(山盛英司 朝日新聞記者 / 2007年)

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百科事典マイペディアの解説

シミュレーショニズム

〈シミュレーション・アート〉ともいう。フランスの思想家ジャン・ボードリヤールの概念から派生した呼称。ボードリヤールは《シミュラークルとシミュレーション》(1981年)などの著書において,高度資本主義社会において消費され増殖していく複製イメージはオリジナルを凌駕するとした。
→関連項目新表現主義

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

シミュレーショニズム
しみゅれーしょにずむ
simulationism

1980年代半ばごろにアメリカを中心に台頭した美術の動向。美術評論家ハル・フォスターHal Foster(1955― )が『アート・イン・アメリカ』誌1986年6月号で論じ、87年春のホイットニー美術館での隔年展で大きく紹介された。ポスト・モダニズムの思想を背景にしており、様式的には多様な形態をとる。むしろ従来の様式史的美術史観を無効にするような動向といってよい。「シミュレーション」とはもともと、コンピュータ上などで現実を模したモデルをつくりあげ、実験を行う方法であるが、フランスの社会学者ジャン・ボードリヤールは、この「シミュレーション」こそが今日の高度情報化社会を特徴づける概念であり、私たちをとりまく現実はみなすでになんらかのメディアによって複写された現実、すなわち「ハイパーリアル」であると指摘した。美術におけるシミュレーショニズムは、こうした思想をふまえてオリジナルとコピーの関係を無効にしたり、過去の美術作品を自由に引用したり、日常的なものや広告媒体を美術の文脈に導入したりした。代表的な作家にシェリー・レビーンSherrie Levine(1947― )、マイク・ビドロMike Bidlo(1953― )、ピーター・ハリーPeter Halley(1953― )、ジェフ・クーンズJeff Koons(1955― )、ハイム・スタインバックHaim Steinbach(1944― )などがいる。[大谷省吾]
『椹木野衣著『シミュレーショニズム』(1991・洋泉社)』

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