フランスの社会学者、哲学者。ランスに生まれる。パリ大学ナンテール校(現、パリ第十大学)の社会学の教授を務めた。ポスト構造主義哲学者の一人とされる。彼の思想的展開は3期に分けることができる。
[平野和彦]
マルクス経済理論の体験から始まり、ソシュール言語学、さらにはフロイトの精神分析を知的源泉として、物を記号としてとらえ、現代消費社会の記号学を構築したことによって世界的に名をはせた時期。『物の体系』(1968)、『消費社会の神話と構造』(1970)などで、マルクスの商品論にみられる商品の物神性に関する考えを受け継ぎながら、生産と消費への欲望を研究した。そこから、現代消費社会は「差異化」「記号化」されたシステムとコードに組み込まれているとする主張を展開した。
[平野和彦]
象徴交換論を展開し、シミュレーション(模造)の問題を検討するなかでマルクス主義にアンチテーゼを突きつけた時期。『象徴交換と死』(1976)では、マルクス主義の終焉(しゅうえん)を主張、「労働が終わり、生産が終わり、経済が終わる」とした。モースの「ポトラッチ」研究などにみられる贈与交換社会(贈与を受け、返礼することによってそのシステムを保つ社会)の概念から、社会と人間の「象徴的な贈与関係」を考察し、人間の「死」は、働き、子をつくる社会システムのなかで、「延ばされた死の贈与」を受け取ること、とした。『シミュラークルとシミュレーション』(1981)では、現代の過剰生産社会のなかで、オリジナルとコピーは差異を越えてシミュラークル(模造品)となる、つまり、現代社会に生きるわれわれはオリジナルの存在しない「ハイパー(超)現実」に取り込まれている、とした。
[平野和彦]
ボードリヤールにとっては終わったはずの世界の歴史だが、その歴史が20世紀末に向かって激動を続ける状況と向かい合う、文明批評の時期。彼は「ハイパー現実」を示すことにより、ニヒリスト的、黙示録的な「歴史の終焉」を告げた。しかし、世界の歴史は、ベルリンの壁の崩壊に始まり、ソ連の解体、湾岸戦争と20世紀末に向かった。ボードリヤールは、『透きとおった悪』(1990)において、エイズにみられるような免疫性の喪失、「自浄能力」を失った世界を描く。『湾岸戦争は起こらなかった』(1991)では、コンピュータ・ゲームと見間違うような映像で見る空爆や地上戦、そして戦争が終結しても何事もなかったかのようにそのまま大統領を続けていたフセインなど、奇妙にも実在感がまるで欠けている戦争を描いた。『完全犯罪』(1995)では、現代社会における現実の解体を通して、世紀末の乗り越えを図る世界を考察している。1981年(昭和56)には来日し、講演を行った。2003年(平成15)来日の際は、アメリカ同時多発テロ等、不安定さを増す世界情勢について、グローバル化する世界が自ら招いたものであると発言した。
[平野和彦]
『宇波彰訳『物の体系』(1980/新装版・2008・法政大学出版局)』▽『ジャン・ボードリヤール著、今村仁司他訳『記号の経済学批判』(1982・法政大学出版局)』▽『竹原あき子訳『シミュラークルとシミュレーション』(1984/新装版・2008・法政大学出版局)』▽『ジャン・ボードリヤール著、塚原史訳『誘惑論序説』(1984・国文社)』▽『ジャン・ボードリヤール著、宇波彰訳『誘惑の戦略』(1985・法政大学出版局)』▽『塚原史訳『透きとおった悪』(1991・紀伊國屋書店)』▽『塚原史訳『湾岸戦争は起こらなかった』(1991/復刊版・2000・紀伊國屋書店)』▽『今村仁司他訳『消費社会の神話と構造』(1995・紀伊國屋書店)』▽『ボードリヤール、M・ギヨーム著、塚原史・石田和男訳『世紀末の他者たち』(1995・紀伊國屋書店)』▽『今村仁司・塚原史訳『象徴交換と死』(ちくま学芸文庫)』▽『塚原史著『ボードリヤールという生きかた』(2005・NTT出版)』
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