(読み)そう

精選版 日本国語大辞典 「草」の意味・読み・例文・類語

そう サウ【草】

〘名〙
① 植物のくさ。
② したがき。草案。草稿。
江談抄(1111頃)四「六条宮見草被白字肝要之由
徒然草(1331頃)二三八「一 常在光院のつき鐘の銘は、在兼卿の草なり」 〔漢書‐淮南王伝〕
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「『来つつ見し宿にぞ影も頼まれし我だに知らぬ方へ行くかな』とさうに書きたり」
※源氏(1001‐14頃)葵「さうにもまなにもさまざま珍しきさまに書きまぜ給へり」 〔魏志‐衛覬伝〕
④ 正式でないもの。略したもの。くずしたもの。また、そのかたち

そう‐・する サウ‥【草】

〘他サ変〙 さう・す 〘他サ変〙 草稿をつくる。文案をつくる。
毎月抄(1219)「家風にそなへんために明月記を草しおきて侍る事」
※読本・椿説弓張月(1807‐11)残「僅に三巻を草(サウ)す」

そう‐・す サウ‥【草】

〘他サ変〙 ⇒そうする(草)

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デジタル大辞泉 「草」の意味・読み・例文・類語

くさ【草】

[名]
植物のうち、地上部が柔軟で、木質の部分が発達しないもの。草本そうほん
役に立たない雑草。「ぼうぼうの庭」
まぐさ。かいば
屋根をく、わら・かやなどの植物。「葺きの屋根」
《山野の草に伏して敵情をうかがう意から》忍びの者。間者。
[接頭]名詞に付いて、本格的でないものの意を表す。「野球」「競馬」
[補説]書名別項。→
[下接語]青草秋草浮き草海草埋め草から枯れ草くち下草染め草民草摘み草つる夏草七草にい庭草春草冬草干し草水草道草焼き草若草(ぐさ)青人草一番草思い草飼い草敷き草田草乳草名無し草二番草根無し草野草き草ぺんぺん草藻草藻塩草
[類語]草本千草春草若草夏草秋草冬草枯れ草干し草・生草・蔓草水草浮き草牧草薬草ハーブ野草庭草雑草下草下生え山草・山野草

そう【草】[漢字項目]

[音]ソウ(サウ)(呉)(漢) [訓]くさ
学習漢字]1年
〈ソウ〉
くさ。「草本草木海草香草雑草除草毒草牧草本草ほんぞう薬草野草
まだ開けていないころ。物事の始め。「草創草昧そうまい
下書き。「草案草稿起草詩草
漢字の書体の一。「草書真行草
ぞんざいな。粗末な。「草庵そうあん草屋
ぞんざいであわただしいさま。「草草
〈くさ(ぐさ)〉「草木草花千草七草庭草水草若草
[名のり]かや・しげ
[難読]通草あけび車前草おおばこ含羞草おじぎそう酢漿草かたばみ草臥くたびれる草履ぞうり煙草タバコ草石蚕ちょろぎ菠薐草ほうれんそう海人草まくり海仁草まくり勿忘草わすれなぐさ草鞋わらじ

そう〔サウ〕【草】

[名]
下書き。草稿。「を起こす」
草書」の略。「かいぎょう
草仮名そうがな」の略。「の手」
立花生花せいか役枝やくえだの一。構成上、全体を支える枝。地にあたるもの。
[接尾]そう

くさ【草】[書名]

《原題、〈フランスL'Herbe》フランスの作家シモンの小説。1958年刊。

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改訂新版 世界大百科事典 「草」の意味・わかりやすい解説

草 (くさ)
herb
grass

一般に植物はと草に大別されるが,この区別はきわめて便宜的なもので,植物学上の本質的な違いはない。維管束植物のうちで,茎頂の活動が有限であまり大きくならず,木部が発達しない茎をもつものを,草本植物すなわち草というが,これとても厳密な定義とはいえず,常識的な慣用語にすぎない。コケ植物地衣類のように維管束をもたない植物は陸上植物であっても草本といわないのが普通である。また,維管束植物のうちで,シダ植物は草本性であるが,ハナワラビのように茎が二次肥大生長を行うものもあるし,ヘゴのように木生シダと呼ばれてはいるが茎には二次生長のみられないものもある。種子植物のうち,裸子植物には草本性のものはなく,被子植物では双子葉類で草本が多様に分化している。

 茎が二次肥大生長を行うかどうかで草と木を区別しようとすることがあるが,ヤブコウジコケモモのように高さ数cmのものを木と呼ぶには語感にそぐわぬものがあるし,木生シダを草ともいいがたい。単子葉類は形成層による二次生長は行わないが,ヤシのようにコルク形成層の働きによってつくられる巨大な幹をもつものも,二次肥大生長を行わないといっても,タケのように大きくなるものもあり,これらは草の範疇(はんちゆう)に入れるようなものではない。草本というのは,形態学的な定義に基づくものではなく,生育している形状を指したものである。

 草本には,種子が発芽してから植物体が枯死するまでが1年以内のもの(一年草,暦年の2年にまたがるものを越年草といって区別することもある)と,たとえ地上部が枯死しても根茎などでなん年も生き続けるもの(多年草)がある。多年草のうちには常緑性の草本も含まれる。種子による繁殖と走出枝や根茎などによる栄養繁殖を併用している草本も多く,草本の繁殖戦略の多様化は草本が多様化したことと関係が深い。

 草本には根出葉と花茎がはっきり区別されるものもあるが(タンポポサクラソウなど),主軸に葉や枝がつき,頂端とその付近に花をつけるというものも多い。形状も多様に分化しているが,生活形も変化に富んでおり,地上生,岩上生,岩隙(がんげき)性,着生,水生などあらゆる場所に生育している。森林の林床には耐陰性の強い草本が生育し,向陽の地には陽生の草本が生じる。高山帯や高緯度地方には,草本が優占するツンドラのような植生帯が発達する。荒蕪地(こうぶち)に適応した草本も多様で,砂漠にサボテンや多肉植物が,海浜には耐塩性の強い塩生植物が,また熱帯で森林が破壊されたあとにはイネ科の植物の茂るアランアラン草原が広がるなどもその例である。植物の遷移をみると,切り開かれた場所にはまず草本が生える。草本のうちのあるものはきわめて強靱な生活力をもっている。

 被子植物の始原型は木本性であったと信じられているが,草本型の生活をはじめるようになったために生活環が短縮され,変異が確立される速度が速まったことが,被子植物の爆発的な適応放散のもとになった。草本性で身軽になった植物が,さまざまの生活形に適応することができ,生活できる場所を広げていったことも,被子植物が陸上で最も優勢となった原動力の一つであろう。

 草という語は雑草を意味することもあり,まぐさを指すこともある。本格的でないものの接頭語に用いられて,草野球などというのも,草が軟質で木に劣るという感覚からきたものであろう。なお,英語には日本語の草にそっくり対応する語はない。herbは草本にあたる語で,茎が地上で高く伸びないものを指し,広葉性のものをいうことが多い。weedは雑草を指す語であり,grassは禾本(かほん)の意でイネ科のものを指すが,広く牧草の意に使われることもある。イネやスゲのような狭葉のものを指すことが多いが,それほど厳密に定義されるものではない。
執筆者:

草は手草(たぐさ)や挿頭(かざし)として採物(とりもの)や神の依代(よりしろ)となるほか,草を摘んだり結んだりして卜占(ぼくせん)や祈願をする風もみられる。また青草を身にまとって神の扮装をする神事も各地にみられる。草は,正月子(ね)の日の若菜摘みや七草,三月節供のヨモギの草餅,五月節供のショウブによる草合せや薬猟(くすりがり),土用の薬草摘み,盆の草市や盆花,十五夜のススキなど年中行事にも多く用いられたり,肥料,飼料,薬草,食料,建築材料となるなど幅広い用途がある。春秋にはそれぞれ七草があり,春の七草は七草粥にみられるように呪術(じゆじゆつ)的な色彩が濃く,一方,秋の七草も単に観賞用だけではなく,卜占にも使われたようである。また草人形(くさひとがた)を作って,穢(けがれ)を託して払ったり,魔よけとして村境に祭る所もある。草は大地よりもえでる生命力の盛んなさまの象徴とされ,多くこの世ならざるものを表象する。草が呪物となり,これを身につけたものが神とされるのは,これがこの世のものでないことを表すものだからであろう。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「草」の意味・わかりやすい解説


くさ

木の対語。木と違って地上部の成長に上限があり、木よりも小形、短命で、茎は木化せず柔らかい植物。草本ともいう。草は、その地理分布の特徴、茎の解剖学的特徴などから、木よりも進化した生活型群とみなされ、一般的には、原始的な木から草が生まれたと考えられている。草の進化を促したのは地球の低温化と考えられている。樹木の成長抑制の結果、つる植物や低木といった生活型が生まれ、さらに生殖時期が早い原始的な多年生草本が生まれた。草という体制では、寒冷な不適期を地下器官や耐性のある種子で生き延びられるために、やがて北方や高山などにもその分布を広げた。日本の植物相では約54%が草本とされている。草には、その生育期間の長さによって短命草(エフェメラル)、一年草、二年草、多年草の区別がある。休眠型や生育型といった生活型の分類は、草本植物の生態学的類型化をその目的としている。また、草は人間とのかかわりの強さから、とくに人為的な攪乱(かくらん)に適応的な雑草とそうでない野草、その中間的な人里植物が区別される。草が相観(植物集団の姿)を支配している群落は草原と総称される。気候条件、生育地条件によって成立する自然草原、人間が定期的に刈り取りをしたり、火入れをすることで維持される半自然草原、人間が草の種子を播(ま)いて造成する人工草原(草地)がある。草原には遷移の途中相のものと極相のものとがある。また優占種の生活型によってイネ科型と広葉型の草原が区別され、両者は光の利用の仕方が異なる。

[大澤雅彦]

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動植物名よみかた辞典 普及版 「草」の解説

草 (カヤ)

植物。茅・薄・笠管・刈萱などの総称,または,薄の別称

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【案文】より

…案ともいう。文書を作成の順序に従って分けると,(1)草案,(2)正文(しようもん),(3)案文,(4)写しとなる。文書を作成するには,まず草案(草(そう),土代(どだい)ともいう)を作り,それを清書して相手に渡す。…

【書体】より

… 六朝時代にはこの意匠化した文字がはなはだ流行した。劉宋の王愔(おういん)《古今文字志目》は古書体36種として,古文篆,大篆,小篆,隷書,象形篆,科斗,殳書,繆書,鳥書,尚方大篆,鳳書,魚書,竜書,麒麟書,亀書,蛇書,仙人書,雲書,芝英書,金錯書,十二時書,懸針書,垂露書,倒薤書,偃波書,蚊脚書,草書,行書,楷書,藁書,塡書,飛白書などをあげている。このうち大篆,小篆,隷書,草書,行書,楷書,藁書などは小篆系の現在も通行の書体であり,他のものは篆隷を自然に存在するものに寓して意匠化した特殊書体で雑体と呼ばれる。…

【イネ(稲)】より

…ちなみに,日本や朝鮮半島では稲魂の観念はあまり発達していない。稲作文化農耕儀礼【伊藤 幹治】
【イネ科Gramineae(=Poaceae)(英名the grass family)】
 種子植物の単子葉植物に属し,ラン科,カヤツリグサ科,ユリ科,ヤシ科とともにその五大科をなす一つの科である。イネ,コムギトウモロコシなどの重要な穀物,牧草,雑草も多く,またタケやササも含まれ,人生との関係のひじょうに深い重要な植物群である。…

【草原】より

…俗にいう〈くさはら〉であるが,生態学的には草本植物が優占する植物群落のことをいい,木本植物を混じえることがある。相観に基づいた植生分類としてよく用いられるリューベルE.Rübelの分類では,植生は森林,草原,荒原に大別され,樹木の被度が50%に満たず,草本の被度が50%を超えるものが草原である。世界の草原面積の大半は,サバンナ,ステップなどの乾燥気候下での気候的極相である大草原が占め,そのほかに,湿潤気候下での地形的,土壌的極相である高山草原,高茎草原,湿原などや,遷移の途中相と考えられる火山草原,砂丘草原などがある。…

【草原】より

…その代表例は,ハンガリーからモンゴルにかけてユーラシア大陸の中央部に広がるステップである。ハネガヤ属,ウシノケグサ属,キツネガヤ属などのイネ科草本がステップでは優占するが,やや湿性なところにはマメ科などの広葉草本herbが多く混じり,半砂漠に近くなるとキク科のヨモギ属植物が目だつ。局部的に塩性地があり,そこではアカザ科植物が優占する。…

【ハーブ】より

…一般に草を意味するが,とくにセージマヨラナなどの薬草,香草をさすことが多い。欧米ではハーブ・ティーや薬用酒として飲んだり,生葉のまま部屋につるしたりするほか,料理の風味づけにも使われる。香辛料薬用植物【編集部】…

※「草」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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