日本大百科全書(ニッポニカ)「シャクガ」の解説
シャクガ
しゃくが / 尺取蛾
geometrid moth
昆虫綱鱗翅(りんし)目シャクガ科Geometridaeのガの総称。鱗翅目のなかでは、ヤガ科の次に大きな科で、日本で知られている種は800種近くに達している。ほとんど全世界に分布し、寒帯や高山帯にも生息しているが、温帯から熱帯に種の数が多い。ほかのガ類と異なって、体は細く、はねの面積の大きいものが多い。はねの開張80ミリメートルに達する大形種もいるが、大部分は中形から小形である。大部分の種は夜行性で、昼間は樹皮や葉の裏にはねを開いて静止しているため、彼らの静止する背景によく適応した色彩斑紋(はんもん)をもつ。したがってじみな色調のものが多い。昼飛性の種のなかには、チョウと同じようなはでな色彩をもつ種もある。成虫の発生期は初夏から秋の初めがもっとも多いが、特殊なものとしては、早春や晩秋に発生する。ごく一部ではあるが、冬季にだけ羽化するものがあって、雌のはねが退化し、雄だけが飛ぶことのできるフユシャク、フユナミシャク、フユエダシャクなどとよばれている。このような耐寒性の強い成虫でも、北海道のような寒冷地では1~2月には羽化せず、初冬と早春の2期間に発生が分かれている。はねの退化した雌は、樹皮や小枝に止まっていて、交尾のため雄の飛来するのを、性誘引物質(性フェロモン)を発散しながら待っている。
幼虫はイモムシ状でシャクトリムシとよばれる特異な歩行を行う。一般のガ類と異なって、第6腹脚と第10腹脚しかない。樹木や草木の葉を食べるものが多いが、一部は花、つぼみ、球果などを食べる。ハワイでは、小形の双翅類などを捕食する肉食性のものが数種類発見されているが、これはこの科としてはむしろ例外的なものである。この科は幼虫が食葉性の種が大部分のため、害虫として経済上重要視されるものが少なくない。森林、庭園樹、果樹に被害を及ぼすものに、ウスバフユシャク、フタナミトビヒメシャク、ウメエダシャク、ウスバミスジエダシャク、オオトビスジエダシャク、シモフリトゲエダシャク、トビモンオオエダシャク、ニトベエダシャクなどがある。桑園の害虫としてはクワエダシャクが有名である。ヨモギエダシャクは雑食性で、キク、ダリアのほか各種の樹木にも加害する。マサキの生け垣につくユウマダラエダシャクは、大発生すると、葉を全部食い尽くしてしまうことがある。
[井上 寛]