インドの詩聖カーリダーサ(4世紀後半~5世紀前半ころ)の最高傑作とされる,7幕よりなる戯曲作品。《アビジュニャーナ・シャークンタラAbhijñānaśākuntala》とも呼ばれる。狩猟に出たドゥフシャンタ王はカンバ仙の苦行林に入り,仙人の養女シャクンタラーと出会う。彼女は実は高名な王仙ビシュバーミトラと天女メーナカーの娘であった。二人はすぐに相思相愛の仲となり,やがて結ばれる。王は形見の指輪を与えて,ひと足先に都に帰る。シャクンタラーは王への思慕のため,怒りっぽいドゥルバーサス仙の接待を怠り,仙人の呪詛を受け,その結果,王は彼女のことをまったく忘れてしまうことになる。王が迎えをよこさないので,すでに妊娠していた彼女は都に行き王に面会するが,王は過去のことをまったく忘却してしまっている。彼女は〈思い出の指輪〉を示そうとするが,途中でそれを水中に落としてしまったのであった。そのとき,天空から女形の光が現れ,彼女をさらって消え去る。やがて漁師が捕らえた魚の腹中から指輪が発見され,王は記憶を回復して,彼女を失った悲しみで鬱々とした日々をすごす。やがて王はインドラ神の御者マータリに導かれ,天上に行って悪魔を征服する。その帰路,王はシャクンタラーと息子バラタに出会う。
このシャクンタラーの名は,バラタの母としてベーダ文献に見えるが,叙事詩《マハーバーラタ》の中でまとまりのある物語のヒロインとなる。ただし,叙事詩では,〈仙人の呪詛〉と〈思い出の指輪〉という二つの重要なモティーフが欠けている。
執筆者:上村 勝彦
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古代インドの7幕からなるサンスクリット劇。4~5世紀に活躍した詩人・劇作家のカーリダーサの作。天女の娘シャクンタラーとドゥフシャンター王との恋愛は仙者の呪詛(じゅそ)によって絶たれるが、記念の指輪の発見によって王の記憶がよみがえり両人は再会を喜ぶ。ナータカという演劇形式をとり、『マハーバーラタ』などにある伝説を巧みに潤色したもので、その構想の妙、詞藻の美は古典サンスクリット文学はもとより、インド文学最大の傑作と称せられる。
[田中於莵弥]
『辻直四郎訳『シャクンタラー姫』(岩波文庫)』▽『田中於莵弥訳『世界の文学大系4 インド集 シャクンタラー』(1959・筑摩書房)』
インドのカーリダーサの戯曲。サンスクリット戯曲の代表作。山中に住む娘シャクンタラーが狩りにきた王と恋をして子を生み,のち宮殿に行って王にその子を認知させるという数奇な話を描いた7幕のもの。
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…その生涯は伝説につつまれているが,グプタ王朝の最盛期,4,5世紀ころに,アバンティ国のウッジャインで文学的活動をしたと推定されている。最も有名な作品は,7幕よりなる戯曲《シャクンタラー》である。この作品は古くから西欧にも紹介され,1789年にウィリアム・ジョーンズが英訳して以来,ロマン主義の文人たちに愛好された。…
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