指にはめる輪状の装身具。指環とも書き、指金(ゆびがね)、指嵌(ゆびはめ)、指巻(ゆびまき)などの語がある。英語のリング、正確にはフィンガー・リングfinger ringにあたる。フランス語では、純粋に装飾の目的でつける指輪をバーグbagueといい契約や象徴などの意味をもつ指輪をアノーanneauとよんで区別する。
[平野裕子]
日本では、すでに弥生(やよい)時代に用いられた形跡があり、小巻き貝やシカの角の指輪が発掘されている。古墳時代には渡来品と思われる青銅、銀、金銅の指輪がみられる。古代になると金銀、珠玉などを指に巻いて飾る指巻を用いていた(『和名抄(わみょうしょう)』による)。以後久しい間忘れられていた指輪は、ようやく江戸時代末期になると指金(ゆびがね)と称して一部の人が使い始める。広く一般化するのは明治以降で、日清(にっしん)戦争(1894~95)の終わりごろから流行した。
西洋の指輪の起源は古代エジプト第18王朝期とされ、すでに金、青銅、ガラス、こはくなどでつくられていた。不死を象徴するスカラベ(聖なる甲虫(かぶとむし))の印章指輪が示すように、古代の指輪は装飾としてだけではなく、印章、あるいは魔除(まよ)けとしても使用されていた。指輪の形は一般に粗大で、台座の宝石は、碧玉(へきぎょく)、真珠、めのう、水晶などであった。
古代ギリシア・ローマでは蛇形のデザインが好まれた。ローマでは黄金の指輪が用いられたが、使用は身分によって細かく定められ、奴隷は指輪をはめることを禁じられていた。古代の指輪の用い方は、左手中指にはめる風習がエジプトにあり、中指は「指輪の指」とよばれていた。1本の指に二つ以上の指輪をはめたり、両手の数本の指に同時にはめたりすることも盛んに行われた。そしてローマ時代には親指にはめる奇風も生まれ、サム・リングthumb ringとよばれていた。
宝石装飾の全盛期であった15、16世紀のヨーロッパには、さまざまな指輪が登場した。印章、婚約、結婚、祈祷(きとう)、喪章、まじないなどの指輪がそれで、輪の内側に詩や句を刻んだポウジイ・リングposy ring(銘入り指輪)、ロケットや小形時計を台座に取り付けたものもあった。ほぼ古代と同様、女性だけでなく男性も用いたが、中指にはめない風習が13世紀ごろにみられる。全盛期を過ぎると、徐々に控えめになり、男性はあまり用いなくなる。近世になると、それまで粗大だった指輪の形は細くスマートになり、簡潔なデザインが多くなる。宝石の研磨技術が向上し、17世紀末期、多面体(ブリリアント)カットの完成はダイヤモンド・リングの地位を揺るぎないものにし、貴石の周囲に小粒ダイヤをちりばめたデザインが現れた。19世紀から20世紀にかけては、金銀のほかにプラチナが多く用いられるようになった。一方、合成宝石や人工宝石が大量に生産されるようになり、いわゆるイミテーション・リングとして広く一般化し、今日では日常でも欠かせない装身具となっている。
[平野裕子]
指輪の型には、全体がほぼ同じ幅のバンド型、輪に1個の宝石や装飾をつけたソリテール型、螺旋(らせん)状に指に巻き付けるスパイラル型、二つの輪を一か所で絡ませて一組にしたツインリング型、中が空洞になった膨らみのあるパフ型(ホロー・フィンガーともいう)などがある。そのほか小形時計つきのリング・ウォッチ、腕輪と鎖でつないだリング・ブレスレットなど。
用途によっては、次のように分類される。(1)契約、信義を示すもの ウェディング・リングまたはマリッジ・リング(結婚指輪。一般に金、プラチナ、ホワイトゴールドなどの甲丸または平打ちのバンド型で、男女とも通常左手の薬指にはめる。最近では五大宝石のいずれかの石の一文字並びや、婚約指輪とペアになったデザインも多い)。エンゲージ・リング(婚約指輪。ダイヤモンドや真珠、誕生石のソリテール型が多い。男性から女性に贈られ、左手の薬指にはめる)。エタニティ・リング(結婚記念日などに永遠の愛を誓って贈る)。そのほか国王、貴族、司祭が代々受け継いでもつ指輪など。(2)身分、階級を表すもの クラス・リングまたはスクール・リング(自分の学級や卒業年次、学校を示す指輪)。(3)魔除け チャーム・リング(神秘的な力をもつとされるものの形や宝石をつける)。(4)印章指輪 認め印や印形などを彫刻したもの シグネット・リング(紋章、印章、またはイニシャルの組合せなどが彫られ、印鑑として書類などに用いる)。シール・リング(主として手紙や包装物の封印に用いる)。(5)何かを入れて携帯するもの ポイズン・リング(毒薬を入れる仕掛けのある指輪)など。たとえば、ボルジア・リングは16世紀のイタリアの名門、ボルジア家の人々が用いたといわれ、パフリング型で、手を振ると毒が出るようなばね仕掛けになっていた。(6)その他 正装用のディナー・リング、服喪を表す黒い石のリングなどがある。
[平野裕子]
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