電気双極子モーメントμをもつ物質が電場Eの中におかれると,物質のエネルギーは-μ・Eだけ変わる。μが回転運動などによって平均化されている場合,あるいはμをもたない物質の場合にも,Eにより物質にまず分極P=αE(αは分極率)が誘起され,これがEと相互作用をして-1/2αE2に比例したエネルギー変化が起こる。前者を一次,後者を二次のシュタルク効果という。
この効果は,1913年J.シュタルクが電場中に水素光源をおいたとき,水素原子のスペクトル線が分岐する現象として見いだしたのが最初である。スペクトル線に及ぼす外部電場の量子力学的な効果であり,全角運動量Jの電場方向の成分の値によって相互作用エネルギーが異なるため,スペクトル線は一般に分岐する。交流電場に対しては,一次のシュタルク効果は平均化されてしまうが,非線形的相互作用があるとスペクトル線は分岐したり,ずれたりする。これをダイナミックシュタルク効果という。シュタルク効果は物質の電気的性質を調べたり,物質を外場で制御する有効な手段である。外部から電場を加えない場合でも,例えばプラズマ中などでは,付近に存在するイオンからのランダムな摂動でスペクトル線の幅が広がり,これからプラズマの電離状態などを知ることができる。
執筆者:清水 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
電界(電場)の中に置かれた原子や分子のスペクトル線が、電界の作用によって分裂する現象。1913年ドイツの物理学者シュタルクによって発見された。分裂の大きさが電界の強さに比例する一次効果と、2乗に比例する二次効果がある。前者は、水素または水素類似原子(原子核のほかに1個だけ電子をもつ原子またはイオン。たとえばヘリウムイオンHe+)においてのみ現れるが、大きさは一般原子においてもみられる二次効果よりはるかに大きい。二次シュタルク効果の観測には、きわめて強い電界を必要とするので、真空放電の陰極電位降下現象を利用したロ・スルド法が用いられている。また、放電などによってつくられるプラズマ中に水素原子やヘリウムイオンが含まれていると、そのスペクトル線は周囲にあるイオンや電子の影響を受けて幅が広くなるので、プラズマ中のイオンや電子の密度の測定に用いられる。
[尾中龍猛]
『田幸敏治・大井みさほ著『レーザー入門』(1985・共立出版)』
光源に対する外部電場の作用によって,スペクトル線が分裂やシフトを起こす現象.1913年,J. Starkが水素の原子スペクトルについてこの現象を発見し,量子力学に重要な基礎データを提供した.周波数の移動が加えた電場に比例する場合を,一次シュタルク効果という.さらに電場が強くなると,電場の二次や三次に比例する二次や三次のシュタルク効果が観測され,スペクトル線全体のシフトが起こる.現在では,原子よりも分子のスペクトルに対する応用が重要になっている.分子の回転スペクトルに対するシュタルク効果から,分子の双極子モーメントを決めることができるばかりでなく,レーザーを吸収する物質側に電場をかけて,吸収線の周波数をシフトさせ,レーザー発振線に逆に共鳴させるようなレーザー・シュタルク分光法まで開発されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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