ジェームソン(読み)じぇーむそん(英語表記)Fredric Jameson

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジェームソン」の意味・わかりやすい解説

ジェームソン
じぇーむそん
Fredric Jameson
(1934― )

1970年代以降アメリカを代表する批評家の一人。オハイオ州クリーブランド生まれ。1954年にハーバーフォード・カレッジ卒業後、エール大学大学院で修士号(1956)、博士号(1959)を取得。一貫してフランス文学を専攻し、博士論文はサルトル研究。その間、フランスのエクス大学、ドイツのミュンヘン大学、ベルリン大学に留学。ハーバード大学、エール大学、カリフォルニア大学サン・ディエゴ校、同サンタ・クルス校などで教鞭(きょうべん)をとった後、1986年デューク大学教授に就任、比較文化学部で文学・批評理論講座の中心的役割を担う。

 最初期の『サルトル』(1961)では、サルトルの著作以外の文献をほとんど参照しない内在的な分析を行っていたが、関心の対象は極めて広く、その後の仕事は、フランスの実存主義とドイツのフランクフルト学派読解を軸に、さまざまなテクスト分析の手法を用いて、「歴史」「政治」「言語」などの諸問題を解釈する試みと総称することのできる広がりをみせている。手法としては、マルクス主義、精神分析、ユートピア論などの概念を頻繁に参照する傾向が強く、また同じ文章のなかで二つの並行した事例を鋭く対比した弁証法的な文体や、随所チャートを挿入する独自のスタイルも際だった特徴としてあげられる。ジェームソンのマルクス主義理論は、エルネスト・マンデルやルイ・アルチュセールに代表される同時代のヨーロッパにおける最先端のマルクス主義解釈をアメリカのアカデミズム文脈へと移植したほとんど唯一の成功例といわれる。また、ポスト・モダニズム後期資本主義社会におけるモダニズムと大衆文化の価値観が衝突しあう文化矛盾の問題として規定し、1930年代以降、1950年代以降、1970年代以降の三つに大別される時代区分の最終段階へと位置づける歴史的視点は、ジェームソン理論の真骨頂として知られている。文学のみならず美術、建築、映画などにも造詣(ぞうけい)が深いが、とりわけ映画に関しては、多くの作品を独自の立場から解釈し、その歴史的、イデオロギー的な状況分析を行った複数の著作を発表している。

 その他の著書としては『弁証法的批評の冒険』(1971)、『言語の牢獄』(1972)、『政治的無意識』(1981)、『ポストモダニズムあるいは後期資本主義の文化理論』(1991)、『のちに生まれる者へ』(1988)など多数。その独創的な批評活動に対する評価は高く、アメリカではマルクス主義批評の第一人者とみなされ、マイケル・ハートMichael Hardt(1960― )らの編集によるアンソロジーなどの研究書も刊行されている。1980年代後半以降多くの主著が翻訳紹介されている日本でもその知名度は高く、1993年(平成5)には立教大学の招聘(しょうへい)で1か月にわたって滞在、講演活動を行った。

[暮沢剛巳]

『荒川幾男他訳『弁証法的批評の冒険』(1980・晶文社)』『川口喬一訳『言語の牢獄』(1988・法政大学出版局)』『大橋洋一他訳『政治的無意識』(1989・平凡社)』『鈴木聡他訳『のちに生まれる者へ』(1993・紀伊國屋書店)』『三宅芳夫他訳『サルトル』(1999・論創社)』『Postmodernism, or, Cultural Logic of Late Capitalism(1991, Duke University Press, Durham)』『Michael Hardt & Kathi Weeks eds.The Jameson Reader(2000, Blackwell, Oxford/Malden)』

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百科事典マイペディア 「ジェームソン」の意味・わかりやすい解説

ジェームソン

米国の批評家。デューク大学教授。米国におけるマルクス主義文学批評・文化批評の代表的存在。英文学や仏文学,現代の批評理論,映画,SF,漱石までを論じ,守備範囲の広さでも知られる。ポストモダニズム論の重要な論客のひとり。《弁証法的批評の冒険》(1971年),《言語の牢獄》(1972年),《政治的無意識》(1981年),《後期マルクス主義》(1990年),《ポストモダニズムと資本主義の論理》(1991年),《地政学的美学》(1991年)など。
→関連項目パスティーシュ

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