改訂新版 世界大百科事典 「ジャコバン主義」の意味・わかりやすい解説
ジャコバン主義 (ジャコバンしゅぎ)
jacobinisme
フランス革命期,とくに1793年から94年にかけて,ジャコバン・クラブに属する革命家たちが抱いた思想および行動方針。政治的結社としてのジャコバン・クラブそのものは89年秋から94年末まで存在したが,その全期間を通じて一貫した方針というものはなく,革命の進行につれてジャコバン・クラブをリードする政治勢力は交替し,93年初めにジロンド派に代わって山岳派がジャコバン・クラブの主導権を握った。一般にジャコバン主義といわれるのは,この山岳派(とくにロベスピエール)が主導するようになってから94年テルミドール9日までの期間におけるジャコバン・クラブの人々の方針を指す。つまり,全国的な支部組織をもつ議会外の政治結社としてのジャコバン・クラブは,この時期に国民公会内部の党派としての山岳派の支持基盤となり(山岳派の多数はジャコバン・クラブの会員),議会内外で呼応して革命を推進していたのである。
ジャコバン主義は,外国軍隊の侵入と国内の反革命勢力とに対抗して革命を擁護し完遂することを基本的目標とし,そのために,強力な政治指導のもとに民衆や農民の力を結集して,これとブルジョアジーの利害とを調和させることを基本方針とした。もともとジャコバン・クラブは,民衆や農民よりもやや富裕な層を会員とするブルジョア的性格をもち,山岳派もまた基本的にはブルジョアジーの利害を代表する党派であったが,彼らジャコバン派は,ジロンド派とは異なって,革命を擁護し完遂するためには民衆や農民の力を結集しなければならないことを自覚していた。したがってジャコバン主義は,反革命勢力に対抗して民衆や農民とブルジョアジーとの同盟関係を樹立し維持することを基本方針とした。そのために,経済政策の面では,民衆や農民の要求を部分的に実現し,政治指導の面では,独裁的な中央集権体制のもとに民衆や農民の力を結集させようとするものであった。まず,経済政策においては,民衆や農民の生活を安定させ社会的不平等をある程度是正するために,生活必需品の最高価格を設定したり買占めを禁止したりして経済統制を実施し,また,領主の貢租をすべて無償で廃止したり,農民の所有地を増加させる手段を講じたりして,土地改革を推進した。他方,政治指導においては,民衆運動や農民運動が暴走して秩序を乱すことを警戒し,彼らの運動の自律性を認めず,公安委員会を中心とする中央集権的な革命政府のもとに,すべての政治勢力を統轄する独裁体制(山岳派独裁ないしジャコバン独裁と呼ばれる)を樹立した。こうして,ジャコバン主義は,革命の擁護と完遂に大きな力を発揮したが,民衆や農民の利害とブルジョアジーの利害との間の基本的な矛盾を覆うことはできず,また,民衆運動を統制しようとしてかえってその無力化を招き,テルミドールの反動によって衰亡した。だが,不平等を是正しようとするその社会理念と,社会運動に政治的方向性を与えようとするその革命的独裁の理念とは,19世紀以降の社会思想に大きな影響を与えており,レーニンもこれから多くを学んでいる。
執筆者:遅塚 忠躬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報