フランス革命期の国民公会議員で,山岳派に属し,急進的な理論家の一人としてロベスピエールと行動をともにした。北フランスの富農の家系に生まれ,10歳で父を失い,学生時代に失恋や家出を経験したが,1788年に法学士となった。その頃,伝統や権威を嘲笑する長編詩《オルガン》(1789)を書いて国王をも批判した。革命が始まると,その居住する北フランスの小都市ブレランクールで政治活動に入り,91年には《革命およびフランス憲法の精神》を刊行して革命の成果をたたえた。92年秋に国民公会議員に選ばれた25歳のサン・ジュストは,同年末に国王ルイ16世の即時処刑を主張した激烈な雄弁によって一躍有名となり,93年には山岳派の指導者の一人として公安委員会のメンバーになった。このときから1年後の死に至るまで,彼はロベスピエールの片腕として,革命的独裁の樹立による強力な諸施策の遂行と祖国の防衛とのために全力を傾けた。すなわち,彼は93年10月に,憲法の実施を延期して非常大権を公安委員会に集中する革命政府の樹立を提案して可決させ,同年末から翌年にかけてライン軍および北部軍に派遣されて戦局の立て直しに努め,94年春には反革命派の財産を没収して貧しい愛国者に分配するというバントーズ法décrets de ventôseを提案して可決させた。しかし,やがて山岳派内部の分派の争いが深刻化し,彼は94年テルミドール9日にロベスピエールらとともに逮捕され,翌日処刑された。その死後に残された《共和制度論断片》の中で,彼はその理念を次のように記していた。〈人間はだれにも従属せずに生きるべきである。世に富裕者も貧窮者もあってはならない〉。
執筆者:遅塚 忠躬
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フランス革命期の政治家。ドシーズに生まれ、ランスで法律を学び放蕩(ほうとう)生活も送ったが、革命勃発(ぼっぱつ)後は一転して政治に熱狂、ロベスピエールを賛美した。地方での活動後、1792年9月国民公会に選出され、山岳派(モンタニャール)に属し、ルイ16世の処刑を主張して注目され、自派の権力掌握後は大公安委員会の一員としてぬきんでて、軍事面ではライン方面軍の勝利に寄与し、軍事全般にL・N・M・カルノーに次ぐ功績があった。エベール派、ダントン派の告発断罪にも主役を演じ、恐怖政治の大天使とよばれ、反革命容疑者の財産を貧困者に無償分配するバントーズ法の推進など多方面の活躍を続けた。しかし、反ロベスピエール派の台頭に対して、初めは調停役を務めようとして失敗、いわゆる「テルミドール(熱月)の反動」によってロベスピエール、クートンらとともに1794年、革命暦によるテルミドール10日、死刑に処せられた。
[樋口謹一]
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1767~94
フランス革命期の国民公会議員。公安委員会の委員でロベスピエール派。ライン軍に派遣されて敏腕をふるうが,テルミドール9日にロベスピエールとともに逮捕,処刑される。
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…会議は毎日午後から開始され,時には深夜まで続けられた。委員のうちバレールBertrand Barèreは国民公会や諸官庁との連絡調整を,ランデJean‐Baptiste‐Robert Lindetは食料補給を,カルノーは軍事問題,プリュール・ド・ラ・コート・ドールClaude‐Antoine Prieur de la Côte‐ďOrは武器・弾薬の調達,ビヨ・バレンヌJacques‐Nicolas Billaud‐Varenneとコロ・デルボアJean‐Marie Collot ďHerboisは地方行政を主として担当したが,委員会の政策の全体的方向を決定づけたのは,事実上ロベスピエールと,彼を補佐したサン・ジュストおよびクートンGeorges‐Auguste Couthonであった。しかしジャコバン独裁の末期になると,保安委員会との対立や,ロベスピエールの個人独裁を危惧する他の委員と,ロベスピエール派との対立が表面化し,テルミドールの反動を招いた。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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