改訂新版 世界大百科事典 「ジャコビアン様式」の意味・わかりやすい解説
ジャコビアン様式 (ジャコビアンようしき)
Jacobean style
イギリスのジェームズ1世の治下(1603-25)に盛行した建築・工芸の様式。同王はP.P.ルーベンス,ベルニーニ,ファン・デイクの名品収集やマントバのゴンザーガ家の有名なコレクションの購入など,芸術を擁護したが,このとき夥しく導入されたイタリア・ルネサンス絵画,特にベネチア派の名画はイギリス美術の展開に大きく影響した。当時最大の建築家イニゴ・ジョーンズも2度のイタリア遊学によって古典古代の建築法とパラディオの建築作品に親しみ,明快典雅な作風を獲得し,帰国後王室建築総監督に就任してイギリス・ルネサンスの始祖となった。現在国立海事博物館となっているグリニジのクイーンズ・ハウスは彼が王妃アンのために建てたもので,イタリアのビラvilla形式にのっとった対称的形体をもつ。ファサードは極度に単純化され,中央テラスに達する半円階段はパラディオ的である。また中央部には正方形の吹抜けホールを設け,陸橋廊で道路の対面の建物と連絡し,全体として,それまでの中世的形式とはまったく異なった軽快なプランを示し,イギリス・ルネサンス様式の口火を切った。ジョーンズはまた,現在軍事博物館となっているロンドンのバンケッティング・ハウス(1622)を設計したが,これはパリのチュイルリー宮殿の約2.5倍の規模をもつホワイトホール宮殿計画案の一部にすぎない。イオニア式(1階)とコリント式(2階)の列柱を窓と交互に配列した立面を示し,内部は吹抜けの大ホールとし,パラディオに基づきながらその煩瑣なマニエリスムを排して,独自の厳格な構成を確立している。ジェームズ1世が夢みた大宮殿のプランは後に《ウィトルウィウス・ブリタニクス》第1巻に掲載され,18世紀建築家の間で永く信奉された。室内装飾と家具には一貫してオーク材が用いられ,球塊状の脚部など重苦しく,また装飾過多の傾向がみられるが,ハートフォードシャーのソールズベリー伯の邸館は,ジャコビアン様式の中にも人間的尺度をもつ和らぎが示されている。
執筆者:友部 直
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報