翻訳|duralumin
高力アルミニウム合金の一種。元来はこの合金を20世紀初頭に開発したドイツの会社の商品名であったがいまでは広く使われており、すべてのアルミニウム合金の代名詞として用いられることもある。たとえば「目抜き通りのジュラルミンのアーケード」は正しくは「アルミニウムのアーケード」で、この用途にジュラルミンは使わない。
本来のジュラルミンは、アルミニウムに銅4%、および少量のマグネシウムとマンガンを加えた合金で、ドイツのデューレンDürenにあった金属会社の技師ウィルムにより1906年に発明された。この合金は540℃程度に一度加熱してから水中で急冷(焼入れ)したのち常温に放置すると、夏の気温では2~3日、冬でも1週間余りの間に順次硬くなり、軟鋼(いわゆる鉄材)なみの強さまであがる。この現象は常温の時効硬化といわれる。
この合金はアルミニウム合金なので、比重は鉄の約3分の1であり、同一重量当りの強さ(強さ/重量比)は鉄材の3倍となるため、この値の大きいことを要求する航空機用材に最適で、以来今日まで飛行機の機体用の構造材となっている。合金名はデューレンとアルミニウムとに由来する。その後さらに強さ/重量比の改善を目ざしての改良合金がつくられ、いわゆる超ジュラルミンが種々つくられたので、強さはウィルムのジュラルミンに比べ50%以上向上している。
この合金改良の目的をも兼ね、時効硬化のおこる機構について金属物理学的な研究が20世紀前半に精力的に行われた。その結果、このようにアルミニウムに対する固溶度が大きく変わる銅のような元素を高温では完全に固溶する量を加えておき、ある温度まで加熱して急冷すると、徐冷の際に溶解度の減少に応じて吐き出され、析出物(CuAl2)をつくって分離すべき銅が強制的に固溶したままの状態で得られることがわかった。こういう状態は常温でのこの合金の状態としては不合理なので、合金は銅を吐き出して本来の安定状態に戻ろうという傾向を潜在的にもつことになり、あとである温度下に置くと、その温度が十分高ければ本来の析出物をつくる過程、かなり低ければ暫定措置としてアルミニウムの結晶格子の中に局部的に銅の濃いところをつくる過程が進行し、これにつれて硬化する。ジュラルミンの常温時効は暫定措置にあたる変化によりおこり、銅のほかマグネシウムもこれに寄与する。
[三島良續]
ドイツのDürenでA. Wilmが1906年に発明したアルミニウム合金で,Al-4質量% Cu-0.5質量% Mg-0.5質量% Mnが代表的組成である.この合金を溶体化処理後水中に焼入れし,室温で数日保持すると,軟鋼に匹敵する強さが得られ,密度が鋼の1/3であることから,画期的な高力新合金となった.引張強さ40 kg mm-2,伸び20%,ブリネル硬さ約100程度が室温時効で得られ,高温でも低温でも強さ,伸びが維持されるので,航空機の部品,軽合金構造用強力材として,おもに展伸材で広く使われている.ジュラルミンの性質は,密度2.8 g cm-3,溶融点650 ℃,熱膨張係数23×10-6(1/℃)である.アメリカでは17Sといわれた合金で,JIS規格では2017合金に相当する.ジュラルミンは航空機の発達と相まって改良が重ねられ,さらに高力の超ジュラルミン,超々ジュラルミンなども実用化されている.超ジュラルミンはJIS規格の2024合金に相当し,Al-4質量% Cu-1.5質量% Mg-0.6質量% Mnが代表的組成である.500 ℃ で水焼入れ後,常温時効させると,普通ジュラルミンの20% 以上も強さが増すのが特徴であり,組成的にはMgをやや多量に含み,Al-Cu-Mg化合物の析出量を多くする.機械的性質は,引張強さ50 kg mm-2,伸び18%,ブリネル硬さ140である.超々ジュラルミンはジュラルミンのCu成分を少なくし,あるいは除いて,Al-Zn-Mg系を主体とした高力アルミニウム合金のことである.その強度が高いことは知られていたが,応力腐食割れを起こしやすいために実用にならなかった.第二次世界大戦中,住友金属工業で,Crを添加して応力腐食割れをおさえた合金を開発し,Extra Super Duraluminと称し,航空機構造用材料として利用した.JIS規格7075合金では,標準組成がAl-5.5質量% Zn-2.5質量% Mg-1.6質量% Cu-0.6質量% Mn-0.25質量% Crであり,機械的性質は,引張強さ58.4 kg mm-2,0.2% 耐力51.3 kg mm-2,伸び11%,ブリネル硬さ150である.この合金は,溶接性のよい溶接構造用材としてすぐれた性質をもち,広汎な用途がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
ドイツのA.ウィルムが20世紀の初めに発明したアルミニウム合金で,約4%の銅,0.5%ずつのマグネシウムとマンガンを含む。鋼は高温に加熱し,水や油に焼き入れることにより硬化するので,ウィルムは同様のことをアルミニウム合金で企てたが,焼入れすると反対に軟らかくなったので,そのまま放置したところ2~3日で著しく硬化したことを発見し,おおいに驚いたといわれる。これが時効硬化(析出硬化)という合金の重要な強化法の発見である。熱処理によって軽いアルミニウムに鋼と同様な強さを与えることができるようになったことから,航空機の材料として注目され,第1次から第2次大戦にいたる間の航空機の発達を支え,この合金もそれとともに改良されてきた。現用の合金では2017合金がウィルムの発明したものに近く,銅約4.5%,マグネシウム約1.5%の2024合金は超ジュラルミンとも呼ばれ,引張強さ50kgf/mmの強度も得られる。7075合金は亜鉛5.5%,マグネシウム2.5%,銅1.6%で,引張強さ60kgf/mm程度の強度が得られる。この亜鉛系の合金は日本の発明でESD(超々ジュラルミンextra super duralumin)と呼ばれ,〈ゼロ戦〉の骨組みに使われた。強度は高かったが,加工性は悪い。アメリカで加工性のよい合金として開発されたのが7075合金である。これらの合金は高強度であることから,航空機関係などに使用されるが,一般に耐食性と溶接性は劣っている。
執筆者:大久保 忠恒
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…(b)2000番台はAl‐Cu系合金で,さらにMgやMnが添加されたものがある。2017(Cu3.5~4.5%,Mg0.4~0.8%)はジュラルミンとも呼ばれ,2024(Cu3.8~4.9%,Mg1.2~1.8%)は超ジュラルミンとも呼ばれる。いずれも,Cuを含む金属間化合物の析出過程で硬化する析出硬化型の合金である。…
…時効硬化性アルミニウム合金,ジュラルミンの発明者。ドイツ,シュレジエン地方の領主の子。…
…しかし骨格羽布張り構造では,性能向上にも,大型化にも限界があった。航空機の能力が飛躍的に向上し,旅客輸送,あるいは戦力としても重要な役割を果たすようになったのは,アルミニウム合金の一種であるジュラルミンが実用化され,1930年代に入ってこれを用いた全金属製モノコック,あるいはセミモノコック構造の飛行機が作られるようになってからである。ジュラルミンそのものは,20世紀の初めに発明され,ツェッペリン飛行船の骨格に使用されてはいたが,本格的に飛行機に使われるようになるのには,構造設計の理論,加工や防食の技術の整う1930年代まで待たねばならなかった。…
※「ジュラルミン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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