イギリスの劇作家シェークスピアのローマ史劇。1599年ごろ初演。T.ノース訳のプルタルコス《英雄伝》に題材を得ている。王位への野心を抱くシーザー(カエサル)に対する貴族たちの反感を利用して,キャシアス(カッシウス)は彼への陰謀をたくらみ,高潔なブルータス(ブルトゥス)も祖国の自由のためにそれに加わる。暗殺が成功したあと,シーザーの追悼演説を許されたアントニー(アントニウス)は巧妙な弁舌で民衆を扇動して,共謀者への反抗に立ち上がらせる。シーザーの亡霊がブルータスの前に現れフィリッピでの対決を告げたあとの戦いで,ブルータスとキャシアスはアントニーら三頭政治軍に敗れて自害する。この劇は政治における理想と現実,支配者と民衆の関係,修辞的弁舌の効用などについて問題を提起するほか,ブルータスの内面描写にはのちのシェークスピア悲劇における主人公の性格創造の内面化がみられる。日本でも早くから紹介されたが,1884年に坪内逍遥は《該撒(シイザル)奇談 自由太刀余波鋭鋒(じゆうのたちなごりのきれあじ)》(1901年に明治座で上演)として浄瑠璃風に翻訳した。
執筆者:笹山 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ようやく自己の本領を発揮し始めた第2期には,結婚を終着点とするロマンティックなアクションを,風刺と諧謔によって多彩に色づけた喜劇を続けて創作し,歴史劇にも愛すべき悪党フォールスタッフの登場する喜劇的脇筋を構築した。他方,《ジュリアス・シーザー》などの作品にはすでに瞑想的な道徳家肌のブルータスと現実的な扇動家タイプのアントニーといったように,性格創造の内面化が見られる。第3期を代表するいわゆる四大悲劇はいずれも人間における美しい外面と醜い実相の背馳をあばき,善と悪,秩序と混沌の争いを描いた傑作である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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