ジラール(René Girard)(読み)じらーる(英語表記)René Girard

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ジラール(René Girard)
じらーる
René Girard
(1923―2015)

フランス出身で、アメリカで活動した文芸批評家。アビニョン生まれ。パリの古文書学院で学位を取得後、1947年にアメリカに移住し、インディアナ大学で学び、1950年に歴史学の学位を取得。同大学でフランス語の講師を務めたのを皮切りに、ジョンズ・ホプキンズ大学、ニューヨーク州立大学などで教鞭をとった後、1981年にスタンフォード大学教授に就任、フランス語学・文学・文明の講座を担当する。フランス語と英語を自在に駆使し、2か国語で多くの著作、論文を発表する執筆活動を展開した。

 ジラールの理論は、しばしば、(1)模倣の理論、(2)欲望の三角形、(3)スケープゴートや暴力理論といった用語によって説明される。これらの用語には、(1)欲望とは内在的なものではなく模倣的なものであり、人間は互いにその欲望を模倣しあう存在である、(2)人間の共同体は模倣への欲望によって緊張が高められ、その結果共同体の内部や複数の共同体同士の間では絶えず緊張・敵対関係が高まり、暴力が誘発されるが、その構造は三角形にたとえられる、(3)社会、文化、政治の根底にはこのような構造をもつ「本質的欲望」を回避するメカニズムがあり、多くの共同体では「本質的暴力」を回避する「けがれなき暴力」の対象としてのスケープゴートを有している、といった主張が展開されている。ジラールの理論はフロイトの強い影響を受けつつも、リビドーやエディプス・コンプレックスの存在を虚構として退けている点や、文化人類学的、社会学的な要素を多く取り入れている点に強い独自性が認められ、人文系、社会系を問わず多くの論者によって参照、引用されてきた。ジル・ドルーズとフェリックス・ガタリは『アンチ・オイディプス』(1972)において、エディプス・コンプレックスの効力を認めないジラールの立場を揶揄したが、ジラールは『地下室の批評家』(1976)で、これを同一性を認める、純粋差異による空論として反論した。

 そのほかの著作には『欲望の現象学』(1961)、『暴力と聖なるもの』(1972)、『世の初めから隠されていること』、『ミメーシスの文学と人類学――ふたつの立場に縛られて』(ともに1978)などがある。長らく、旧約聖書・新約聖書やギリシア悲劇などを題材とした宗教、神話、儀礼テクストの分析や解釈を仕事の中心としていたが、『羨望の炎』(1991)では一転してシェークスピアの作品解釈に取り組んだ。

[暮沢剛巳]

『古田幸男訳『欲望の現象学――文学の虚偽と真実』(1971・法政大学出版局)』『古田幸男訳『暴力と聖なるもの』(1982・法政大学出版局)』『小池健男訳『世の初めから隠されていること』(1984・法政大学出版局)』『織田年和訳『地下室の批評家』(1984・白水社)』『浅野敏夫訳『ミメーシスの文学と人類学――ふたつの立場に縛られて』(1985・法政大学出版局)』『M・ドゥギー、J・P・デュピュイ著、古田幸男ほか訳『ジラールと悪の問題』(1986・法政大学出版局)』『小池健男訳『邪な人々の昔の道』(1989・法政大学出版局)』『小林昌夫・田口孝夫訳『羨望の炎――シェイクスピアと欲望の劇場』(1999・法政大学出版局)』『西永良成著『個人の行方――ルネ・ジラールと現代社会』(2002・大修館書店)』

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