イギリスの音声学者,英語学者,比較言語学者。19歳でドイツに留学,比較言語学の方法論を修め,後オックスフォード大学に学ぶ。天与の音声学的才能と洞察力により現代音声学の開拓者の役割を果たすとともに,古英語(アングロ・サクソン語)の研究に確実な基礎を与え,中・近代英語の研究とあいまって,英語史,とくにその初期に,近代音声学・言語学の角度から光を当てた。著書《音声学教本A Handbook of Phonetics》(1877),《英語音声史A History of English Sounds》(1874),《英語の音声The Sounds of English》(1908)は音声学の名著である。彼の考案した〈簡略ローマ字音声表記法Broad Romic〉は彼の音素観を反映している。《アングロ・サクソン語読本An Anglo-Saxon Reader》(1876),《最古英語文献The Oldest English Texts》(1885),《新英語文典A New English Grammar》2巻(1892,98),《言語の歴史The History of Language》(1900)等に彼の古英語,英語史,文法学の卓抜な学殖が示される。彼の学問が時代に先がけていたことや彼のかたくなな性格のゆえに,大学にはいれられず教授の職につくことなく世を去った。
執筆者:大束 百合子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イギリスの英語学者、言語学者、音声学者。ドイツのハイデルベルク大学に学び、英語の歴史的研究の方法を知ったが、これに飽き足らず、真にイギリス的な英語学を独力で構築した。活動は多方面にわたるが、性格が災いしてか、あまりに時代に先んじていたためか、地位に恵まれず、オックスフォード大学の音声学準教授にとどまった。英語史ことに古期英語の研究、科学的な英文典の発表、英語のみならず諸国語の音声学的研究、優れた教科書および辞書の編集執筆、どれをとっても当時の国際的水準を抜き、今日なお十分に参照するに足る業績を残し、いまに至るまでイギリス最高の学者の名に恥じない。その学風は、イギリスではワイルドHenry Cecil Wyld(1870―1945)、デンマークではO・イェスペルセンに継承された。
[三宅 鴻 2018年7月20日]
『H・スウィート著、東浦義雄訳『古代英語文法入門』(1978・千城)』▽『ヘンリー・スウィート著、小川芳男訳『言語の実際的研究』(1986・英潮社新社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…またロシアではロシア文字が利用され,[p]を[п],[b]を[б]としるしている。 このほかに特別な記号を字母的に用いたものにH.スウィートの器官的記号がある。彼は前舌高母音[i]にɾ,中母音[e]に,低母音にの記号をあて,閉鎖音[p]を,[t]を,[k]をと表している。…
…さらに,そうした伝統的なラテン語文法にならって,やがて当代のヨーロッパ諸言語の文法の研究も徐々に行われるようになり,これらを〈伝統文法〉と呼んでいる。たとえば英語では,19世紀末にH.スウィートが,また20世紀前半にO.イェスペルセンが,いずれも〈伝統文法〉の集大成ともいうべき業績を残している。一方,18世紀末にヨーロッパ諸言語とサンスクリットなどの類似が指摘されると,19世紀には,それら諸言語――一般的な言い方をすれば,歴史的に共通の祖にさかのぼると考えられる諸言語――を相互に比較してその歴史的な関係を究明しようとする〈比較文法〉が興った(〈比較文法〉という語は前掲の〈対照文法〉とは異なり,このように限定的な意味で用いる)。…
※「スウィート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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