神学,哲学,法学を含めて,中世ヨーロッパで成立した学問形態の総称。文字どおり〈スコラschola=学校の学問〉を意味するが,この言葉が初めて用いられたのは16世紀の人文主義者の間においてであり,当初から頑迷,瑣末など軽べつの意味をもっていた。しかし,この言葉が指示している当の中世的学問の営みは,古代学術の継承・移植という大事業であり,その成果が近代以後の西洋学問の基盤であることはいうまでもない。狭い意味でのスコラ学は,カトリック教会の教義を信仰をもって受けいれたうえで,それを主としてプラトンおよびアリストテレス哲学の助けをかりて理解しようとする学問的努力を指す。この意味でのスコラ学の根本性格は,アンセルムスの〈知(理解)を探求する信仰fides quaerens intellectum〉という言葉によって表現されている。それは信仰と理性との統一・総合をめざす学問的企てであり,その成功と挫折の跡がスコラ学の歴史にほかならない。
古代学術を西欧ラテン世界へと移植する企てに最初に着手したのはボエティウスであり,彼は〈スコラ学の創始者〉に数えられる。また中世における古代学問・思想再生の最初の試みであるカロリング・ルネサンスの頂点に位するスコトゥス・エリウゲナのうちにスコラ学の端緒を認める説もある。しかし独自の特徴を示すスコラ学が開花するのは,いわゆる〈12世紀ルネサンス〉においてであり,〈スコラ学の父〉と称せられるアンセルムスにおいては,洗練された論理学・弁証論を駆使してキリスト教の教義を解明しようとする試みが見いだされる。それをさらに徹底させたのがアベラールであり,その著《然りと否》は,中世大学の基本的授業形式の一つである〈討論disputatio〉および主要な著述形式〈スンマsumma〉の原型である。この時期,普遍(類と種)をめぐる論争(普遍論争)が盛んに行われた。
13世紀の盛期スコラ学の特徴は,学としての神学の成立であり,いいかえると,アルベルトゥス・マグヌス,トマス・アクイナス,ボナベントゥラなどにおける,信仰と理性との偉大な総合である。その背景にはパリ,オックスフォードなどの大学における活発な学問活動,アリストテレス哲学の導入,ドミニコ会,フランシスコ会を先端とする福音運動の推進などの積極的要因が見いだされる。そしてドゥンス・スコトゥスはトマス的総合を批判して,学問的により厳密な新しい総合を企てるが,その批判的側面を徹底させて,純粋な信仰と経験的・実証的な学問とが分離する道を開いたのがオッカムである。それは中世的な学問形態の終末であると同時に,新しい学問形態の端緒でもある。これとは別の意味でスコラ学の終点に位置するのが,学問の中世的特色と近代的傾向とを対立のまま両立させた15世紀のニコラウス・クサヌスである。スコラ学は16,17世紀に偉大なトマス注釈家たち(カエタヌス,ビトリア,スアレス)によって復興され,さらに19世紀後半に起こったトマス哲学再生運動にともなって〈新スコラ学〉の名の下に影響力を回復する(トミズム)。現在ではスコラ学を〈暗黒時代の哲学〉〈煩瑣哲学〉として無視する傾向はしだいに後退し,哲学史ないし科学史的研究の対象,ないし宗教哲学的関心の対象としての地位を確保している。
→中世科学
執筆者:稲垣 良典
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スコラはラテン語で学校の意味であるが,スコラ学はとくに中世の大学で行われた諸学問に共通する方法を示すものである。学問の主題領域の体系的な区分,個々の主題をめぐる相異なる諸見解の対置,合理的な論証による問題の解決,論駁や再解釈による対立意見の解消などが特徴である。その起源は,大学成立以前にあるが,大学における教授方法として広く用いられることで確立した。神学特有の方法ではないが,当時の大学の最高の学問とされた神学においてとくに優れた思索を生み出した。最盛期の13世紀~14世紀前半にはトマス・アクィナス,ボナヴェントゥラ,ドゥンス・スコトゥス,オッカムなど大学出身の神学者が活躍した。トマスの『神学大全』はスコラ学の最高傑作とされる。近世以降には中世の学問を「硬直化した空理空論」として批判する蔑称としても使われたが,実際には大学の学問伝統の出発点をなすものである。
著者: 加藤和哉
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
…しかし,この伝統を受けつぎながらも,芸術様式を思想・精神様式との関連のもとに考察したのは,パノフスキーである。彼はゴシック教会堂のプランと建築構造が,ゴシック時代のスコラ学の哲学体系に一致することを論証した。このパノフスキーの手法を継承しつつ,ゴシック精神の具体的内容を祖述する作業が必要となろう。…
※「スコラ学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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