アメリカの宇宙輸送用ロケット。shuttleとは本来は織機の杼(ひ)のことであり,糸の間をいったりきたりするところから,この名称が定期的に頻繁に往復して運航する輸送機関に対して用いられるようになった。このことからわかるように,スペースシャトルは従来のロケットと異なり,地上と宇宙の間を往復運航することが可能なロケットで,オービターは航空機のような有翼ロケット機である。
構成
スペースシャトルは2本の固体ロケット,外部タンク,そしてオービター(軌道機)とで構成される。
固体ロケットは外部タンクをはさむ形で2基取りつけられており,オービターのエンジンと並行して作動し,初めに燃焼してしまって切り離される。一種の補助ロケットといえるが,その大きさは固体ロケットとしては世界最大で,直径3.7m,全長は45.5m,推進剤が入っているときの重量は1基当り約586.5tもあり,発射のために組み立てられるスペースシャトル全体の約半分の重量を占めている。スペースシャトルの打上げ費用をできるだけ少なくするために,この固体ロケットは燃焼後,パラシュートで落下し,洋上で回収されて大部分の器材は再使用される。使用回数は5回とされている。
外部タンクはスペースシャトルのシステムの中では最大のものであり,しかもこれだけは毎回使い捨ててしまう部分である。一般にロケットの推進剤タンクは大きな割には安価な部分であって,回収しても採算上成り立たないおそれがある。スペースシャトルはこの点を考慮してタンク以外の高価な部分をすべてオービターに組み込んで,繰り返し使用できるようにし,タンクだけは分離して使い捨てとするように企画された。外部タンクは直径8.4mで全長が47mあるが,中は二つのタンクに分かれており,前方が液体酸素用,後方が液体水素用で,重量の内訳は液体酸素が604.2t,液体水素が101.6t,タンクが37.5tとなっている。
オービターは三角翼の航空機の形状をしていて,前部乗組員室は宇宙飛行に耐えられる気密室となっており,その内部は宇宙服なしで生活できる環境が作られている。中央部は長さ18m,直径4.5mの容積の荷物が収容できる船倉で,後ろの部分に打上げ時に使用する主エンジンと軌道上で使用する小型のエンジンが取りつけられている。オービターはスペースシャトルのシステムの代表的な構成部分で,従来の打上げロケット,宇宙船,帰還用カプセルの三つの機能をもっている。
運用
スペースシャトルはこれら三つの構成部を組み立てて垂直に発射される。打上げ時はオービターの主エンジンと固体ロケットが作動して推進力を出す。固体ロケットは約2分後に燃焼を終えて切り離されるが,オービターと外部タンクはさらに加速を続け,軌道速度7.8km/sに達する直前に主エンジンを停止して外部タンクを切り離し,オービターだけが軌道操作用エンジンを働かせて,さらに加速して軌道にのる。
軌道上ではオービターは宇宙船として人間の生活する場所となるだけでなく,荷物としてのせてきた人工衛星を軌道にのせたり,ロケットを発射したりする。また広い荷物室を宇宙作業台として宇宙実験や観測のために利用することができる。軌道操作用ロケットを使用することによって別の軌道へ移動する能力があるので,人工衛星の修理などのための軌道間ロケットとしても使用できる。
オービターは三角翼を採用したことにより,大気突入後に飛行経路を変えることが可能で,直進的なカプセルの落下コースに比べて幅広く着陸点を選ぶ(左右1900kmまで)ことができる。
スペースシャトルの発射場はケネディスペースセンターとバンデンバーグ空軍基地にある。着陸はケネディスペースセンターまたはエドワード空軍基地で行われるが,4000mの滑走路をもった空港には着陸することができるので,このほかにもいくつかの空港が緊急着陸用に指定されている。スペースシャトルが宇宙へ運搬できる荷物の重量は打上げ場所などの条件によって違ってくるが,最大約30tである。スペースシャトルによる宇宙飛行は1981年4月12日の〈コロンビア〉が最初で,96年6月まで総計78回の有人飛行が行われている。
スペースシャトルのように翼をもった宇宙ロケット計画は日本でも進行中である。またスペースシャトルそのものも改良の計画があり,将来は完全に航空機のような形をした宇宙有翼ロケットも出現すると予想されるが,スペースシャトルはその先駆的意味をもっている。
→宇宙開発
執筆者:長友 信人