日本大百科全書(ニッポニカ) 「ズワイガニ」の意味・わかりやすい解説
ズワイガニ
ずわいがに
snow crab
queen crab
[学] Chionoecetes opilio
節足動物門甲殻綱十脚(じっきゃく)目クモガニ科に属するカニ。食用ガニで水産業上の重要種である。古くから人々との生活と密接な関係にあったため地方名が多い。東京地方や大阪地方などの消費地では主産地名をとったエチゼンガニ(越前蟹)、あるいは山陰地方の呼び名であるマツバガニ(松葉蟹)の名が通りがよい。ズワイガニの語源は明らかでない。各地でズワイとよぶのは大形雄に対してであることを考えると、「ズ」は頭で、カニの王者の意味ではないかとされる。東北地方の日本海側ではズワイガニのことをタラバガニとよび、本当のタラバガニをイバラガニとよぶことがあるので注意を要する。雌に対してはセイコとかセコという地方が多いが、メガニ、コモチ、コウバクガニなどともよばれる。成体になった雌は一年中抱卵し、幼生を放ったのちにふたたびすぐ抱卵する。すなわち、雌はつねに抱卵しているが、セイコまたはセコは抱卵雌の総称で、発生初期の橙(だいだい)色の卵をもつものをアカコ、黒褐色の発眼卵をもつものをクロコと呼び分けることもある。腹部がまだ完全には広がっていない幼ガニをゼンマル、脱皮間近の二重の甲をもつものをフタカワガニ、フタヨガニ、ニマイガニなどとよび、脱皮後の軟らかいものをワタガニとよぶ。
甲の輪郭は丸みを帯びた三角形で、甲はあまり硬くない。雄は甲幅18センチメートル、歩脚を広げると80センチメートルに達するが、雌は7~8センチメートルになって性的に成熟すると成長が止まる。日本海全域、オホーツク海を経てアラスカまでの水深70~500メートルに分布するが、日本近海のものでは第1歩脚の長節の長さと幅の比が5.5~6.3、北東太平洋のものでは4.9~5.2といわれる。すなわち、北西太平洋のものは歩脚がやや長いということで亜種Ch. opilio elongatusの学名が使われることもある。
日本近海には紅赤色のベニズワイガニCh. japonicusが分布している。ズワイガニより深い水深400~2000メートルにすみ、多産するが、肉質が劣る。近年、両種の雑種が得られ話題となっている。ブリストル湾とその近海にはオオズワイガニCh. bairdiやキタズワイガニCh. tanneriが多産し、北洋漁業の貴重な資源となっている。
[武田正倫]
漁業
世界のカニの漁獲量約134万0432トン(2007)のうち、ズワイガニ属のカニ類はワタリガニ科のカニ類に次いで多い。日本でもベニズワイガニとズワイガニがそれぞれ1、2位を占めているが、減少傾向にある。主漁場はカナダの東岸沖、セント・ローレンス湾、ハドソン湾、ベーリング海の東部・西部、アラスカ西岸沖、オホーツク海および日本海である。その深度は70~200メートルである。ただし、日本海ではズワイガニで200~450メートル、ベニズワイガニでは1200~1500メートルが普通になってきている。主漁具は籠(かご)で、それには入ったカニが出にくいように落とし口がつけてある。ほかに日本海のベニズワイガニのように袋状の網を海底沿いに引く底引網、あるいは網にカニを絡めて漁獲する底刺網類も用いられる。ズワイガニは美味で、乱獲されやすく、しかも成長が遅いために、減少した資源は容易に回復しない。したがって、籠の改良によって雌ガニ、子ガニの混獲死亡を軽減し、資源の再生産力を有効に利用することが望ましい。
[笹川康雄・三浦汀介]
『FAOFAO Yearbook;Fishery and Aquaculture Statistics(2008)』