ソレル(読み)それる(英語表記)Charles Sorel

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ソレル」の意味・わかりやすい解説

ソレル(Georges Sorel)
それる
Georges Sorel
(1847―1922)

フランスの社会思想家。シェルブール生まれ。理工科大学校(エコール・ポリテクニク)を中退後、45歳(1892)まで土木技術官僚であったが退職し、余生を文筆生活に捧(ささ)げた。ドレフュス事件に揺れる「世紀末」のフランスにあって、深刻な危機意識を抱いた彼は、マルクスの社会革命論に西欧のデカダンスを突破する手掛りを求め、これにプルードンベルクソン、さらにはサンジカリストのペルーチエなどから学んだ思想を織り交ぜて独特の「社会神話」論を唱えた。その主著『暴力論』では、ドイツのベルンシュタイン流の議会主義的マルクス主義を排斥し、労働者と資本家の直接的な激突(暴力)に崇高な社会倫理の高揚をみいだした。このモデルは当時フランスで盛んであったサンジカリストの「直接行動」であり、ソレルは、彼らのゼネストによる社会革命こそ労働の尊厳に基づく新しいモラルの確立をもたらすものと期待した。

 しかしサンジカリストの運動は挫折(ざせつ)し、それに失望したソレルは逆に、第一次世界大戦直前まで右翼王党派の「アクシオン・フランセーズ」に接近するが、ロシア革命の報を聞くや、今度はレーニンを熱烈に賛美した。彼のこうした複雑で矛盾に満ちた思想と行動は、その反議会制民主主義の主張のためか、ボリシェビズムファシズムをはじめとする左右両極の社会運動に、少なからぬ影響を与えたといわれている。

[谷川 稔]

『今村仁司・塚原史訳『暴力論』上下(岩波文庫)』『川上源太郎訳『進歩の幻想』(『現代思想Ⅱ』所収・1974・ダイヤモンド社)』『S・ヒューズ著、荒川幾男・生松敬三訳『意識と社会』(1965・みすず書房)』


ソレル(Charles Sorel)
それる
Charles Sorel
(1602?―1674)

フランスの小説家、雑書作者。パリに生まれ没す。放縦(ほうしょう)な生活を送り、窮迫した生涯を過ごす。早くより多くの小説を書いていたが、おもな作品は、ルイ13世治下の社会の各層を活写した、17世紀現実派小説の代表作『フランシヨン滑稽(こっけい)物語』la Vraie histoire comique de Francion(1623~33)、当時流行した牧人小説パロディーである『とっぴな羊飼い』le Berger extravagant(1627)、金融業者を中心とするブルジョア社会を描いた『ポリアンドル』(1648)などがある。なお、17世紀文学研究の貴重な資料である『フランス書誌』(1664)ほか、神学、科学、歴史などに関する雑書多数がある。

[渡邊明正]


ソレル(Albert Sorel)
それる
Albert Sorel
(1842―1906)

フランスの歴史家カルバドスオンフルールに生まれる。1866年外務省に入り、72年政治学学院の外交史担当教授に就任した。76年から1902年まで上院議長府事務局長を務めた。テーヌを師とし、主著『ヨーロッパフランス革命』(八巻、1885~1904)では革命と国際関係相互作用を考察した。ほかに『プロイセン・フランス戦争外交史』(1875)、『18世紀の東方問題』(1878)などがある。1889年にアカデミー・フランセーズの会員に選ばれた。

[岡本 明]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ソレル」の意味・わかりやすい解説

ソレル
Sorel, Georges

[生]1847.11.2. フランス,シェルブール
[没]1922.8.28. フランス,ブーローニュシュルセーヌ
フランスの思想家。エコール・ポリテクニク出身の技師であったが独学で社会主義思想や哲学を研究。マルクス,プルードン,ベルグソン,ウィリアム・ジェームズ,ニーチェらの影響を受けた独特の社会理論を展開し,サンディカリズムの理論的基礎づけを行なったが,他方,一時期アクシオン・フランセーズに接近したこともある。その主意主義的・行動主義的な革命論は 20世紀前半の思想に大きな反響を呼び,一説にはレーニンとムッソリーニに影響を与えたとも伝えられている。著書に『暴力論』 (1908) ,『進歩の幻想』 (08) がある。

ソレル
Sorel

カナダ,ケベック州南部の都市。セントローレンス川南 (右) 岸の支流リシュリュー川が合流する地点に 1642年建設された要塞を中心に発達。農業地帯の行政,文化,商業の拠点。歴史博物館,2つの大聖堂,ゴシック様式の聖堂 (1842) などがある。河港は,リシュリュー川,シャンプレーン湖,ハドソン川を経てニューヨーク港にいたる水路の重要な位置を占め,冬季は汽船や浚渫船の繋船場になる。製鋼,チタン合金,船舶修理,合成樹脂,合成繊維などの工場も立地する。人口1万 8786 (1991) 。

ソレル
Sorel, Albert

[生]1842.8.13. カルバドス,オンフルール
[没]1906.6.29. パリ
フランスの歴史家。 H.テーヌの弟子にあたる。外交史に才能を発揮し,フランス革命期外交史を研究。主著『ヨーロッパとフランス革命』L'Europe et la Révolution française (8巻,1885~1904) は,フランス革命期とナポレオン時代の国際関係についての卓越した研究である。

ソレル
Sorel, Agnès

[生]1422頃.フロマントー
[没]1450. アンヌビル
フランス王シャルル7世の愛妾。4王女の母。 J.クールらとともに王の側近となり,国王の政治にかなりの影響力を与えた。急死したため毒殺の風評が立ち,王子ルイ (のちのルイ 11世) に疑惑が及んだが確証はない。

ソレル
Soler, Antonio

[生]1729.12.3. オロトデポレーラ
[没]1783.12.20. マドリード,エルエスコリアル
スペインの作曲家。モンセラト修道院で音楽を学び,レリダ大聖堂の楽長を経て,1752年マドリード近郊エルエスコリアル修道院のオルガニストとなる。 D.スカルラッティの教えと影響を受け,多数の鍵盤楽曲,室内楽,教会音楽を作曲した。

ソレル
Sorel, Charles, sieur de Souvigny

[生]1602
[没]1674
フランスの小説家。悪者小説『フランシヨン滑稽物語』L'Histoire comique de Francion (1623) ,風刺小説『突飛な羊飼い』 Le Berger extravagant (27) など。

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