主として気象(学)用語として、大気や地表面が熱放射によって冷却することをいう。一般にすべての物体は、それを構成する原子・分子の熱運動のため電磁波を放射し、その強度は温度が高いほど大きく、また温度が高くなるほど、エネルギーをおもに放出する電磁波の波長は短くなる。太陽表面は約6000K(ケルビン)の高温で、可視・近赤外域(波長0.3~3マイクロメートル)の電磁波を放射している。このことは日常体験から明らかであるが、一方、地球表面からは約300Kの温度に対応して、目には見えない遠赤外域(波長5~50マイクロメートル)の電磁波がつねに放射されている。このため地表面は、昼間は太陽からの放射(日射)を吸収して高温となるが、午後遅くなると地面からの放射のほうが大きくなってエネルギーが失われ温度が下がる。夜間は日射がないので地面は熱放射によって一方的に温度が下がり、地面に接した空気の気温も低くなる。このように放射冷却は毎日おこっているが、その程度は気象条件によって変わる。実は、大気中の水蒸気や二酸化炭素などの気体成分も、地表面とは異なるが、限られた特定の波長の遠赤外線を上下に放射しており、したがって地表面からの全波長域にわたる熱放射(プランクの放射公式に従う黒体放射)と大気層からの下向き放射との差が放射冷却をおこしているのである。さらに雲層は地表面と同様に全波長にわたる黒体放射をしており、そのため曇天のときは夜間でも冷却は少なくなる。また風が強いと、冷えた地面近くの空気と、地面の冷却の影響を受けていない上空の空気との混合が激しくなり、気温低下は少ない。これらの条件のため、風が弱く晴れて乾燥した(水蒸気の少ない)夜に放射冷却が著しい。そして気温低下が大きいと水蒸気が飽和し、凝結によって霧が生じる。これを「放射霧」とよぶ。
夜間の放射冷却のため地面近くの気温が下がり、上空より低温となって「逆転層」をつくることはしばしばみられるが、このようなときは上下の空気の混合が抑制され、地面起源の煙や汚染物質などが滞留しやすくなる。また、晩春の作物の生育初期に放射冷却のため顕著な低温がおこると、晩霜(おそじも)(八十八夜の別れ霜)のため被害(霜害)を生じることもある。
[松野太郎]
『近藤純正著『地表面に近い大気の科学――理解と応用』(2000・東京大学出版会)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…再突入時には非常に大きな速度で大気中を運動するために,空力加熱による温度の上昇がきわめて大きなものとなり(スペースシャトルでは,もっとも高温になる機首先端で1500℃ほどにもなる),なんらかの方法で機体を保護する必要がある。これには放射冷却とアブレーション冷却と呼ばれるものがある。前者は,機体表面から気体や液体を放出し冷却させる方法で,構造が複雑になる欠点がある。…
※「放射冷却」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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