翻訳|Thai
タイの公用語。旧称シャム語Siamese。標準タイ語はバンコク方言を基盤としており全国で通用するが,日常的に使用されているのは国の中央部においてであり,面積・人口とも約3分の1(1400万人)の地域である。それ以外では同系のタイ諸語や異系のカンボジア(クメール)語,マレー語,中国語やその他の少数民族の言語が話されている。ただし国は国語統一政策を着々と進めている。
音韻上は単音節を根幹とし,〈母音だけ〉〈母音+子音〉〈子音+母音〉および〈子音+母音+子音〉の型があり,これに声調が加わる。なお外来語の影響による複音節語も少なくない。子音には/ʔ,k,c,t,p;kh,ch,th,ph;d,b:ŋ,n,m;l,r,f,s,h;y,w/の21種のほか,〈破裂音+l,r,w〉の型の11種の子音群がある。ただし音節末にはこのうちの/ʔ,k,t,p;ŋ,n,m;y,w/しかこない。母音は/i,,u,e,ɛ,ə,o,ɔ,a/の9種の単母音(おのおの長短あり)と3種の二重母音/ia,a,ua/がある。声調は5種あり,たとえばkhaaという音節を平声で発音すれば〈首かせ〉,低声なら〈さんしょう(山椒)〉,下声〈値段〉,高声〈商う〉,上声〈脚〉を意味する。
文字は13世紀末にカンボジア文字(クメール文字)に範をとって作られ,最古の文献に1292年の碑文が残っている。現在のタイ文字は42の子音字と32の母音字から成り,これを組み合わせ必要に応じて声調符号を加えて音節と声調をあらわす。文字は左から右へ横書きする。
文法上は孤立語的で,主として語順と助辞によって統辞される。基本語順は〈主語+述語〉と〈被修飾語+修飾語〉である。否定辞は否定される語の前につけ,また疑問文でも語順は変わらない。たとえばphǒm yàak thaan ʔaahǎan(私・シタイ・食ベル・食物)〈私は食事がしたい〉,khun phûut phaasǎa thay pen mǎy(アナタ・話ス・言葉・タイ・デキル・疑問辞)〈あなたはタイ語が話せるか〉,khǎw mây yùu thîi bâan(彼・否定辞・イル・ニ・家)〈彼は家にはいない〉となる。名詞が数詞,指示詞または形容詞を伴う場合は一定の類別詞を必要とする。たとえばphûuchaay sɔŋ khon(男・2・類別詞)〈2人の男〉,mɛɛw tua nán(猫・類別詞・ソノ)〈その猫〉,rót khan mày(車・類別詞・新シイ)〈新車〉である。指示詞は三分法で,nîi〈これ〉,nân〈それ〉,nôon〈あれ〉,声調を変えるとníi〈この〉,nán〈その〉,nóon〈あの〉となる。加えてnǎy〈どれ,どの〉がある。単語は分析的で複合語が多いのが特色。たとえば,〈湯〉はnám rɔ´ɔn(水・熱イ),〈果物〉はphǒnla máay(実・木),〈親〉はphɔ^ɔ mɛ^ɛ(父・母)という。また〈きょうだい〉phîi nɔ´ɔŋは〈兄・姉〉と〈弟・妹〉の複合であり,〈先祖〉pùu yâa taa yaaiは父母両系の祖父母名称を連ねたものである。畳語が好まれdǐi dii〈非常に良い〉,rew rew〈早く早く〉のようにいう。敬譲表現が豊富で人称代名詞の待遇法をはじめ,名詞,動詞にも及ぶ。たとえば〈食べる〉はkin,thaan,rápthaan,rápprathaanの順序で丁寧となる。なおタイ語語彙の3分の2は外来語で,インド,中国の二大文化の影響によるサンスクリット・パーリ語と中国語(近世以降の華僑語も含む)のほか,カンボジア語やマレー語などが占める。
執筆者:松山 納
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
タイ国の国語・公用語をさし、使用人口は約4000万人である。ただし、標準タイ語を日常生活語に用いる範囲は面積・人口とも全土の3分の1ほどで、それ以外ではタイ語の大小の方言や系統の異なるさまざまな少数民族語が用いられている。タイ語を広義にとると、タイ国のみならずラオス、ベトナム、中国南西部、ミャンマー(ビルマ)およびインドのアッサム地方に分布するタイ系諸言語を包括する。系統的にはシナ・チベット語族に入れるのが通説であるが、オーストロネシア語族に関係づける異説もある。
タイ語の構造は、発音上は本来単音節の声調語であって、「母音だけのもの」「母音+子音」「子音+母音」および「子音+母音+子音」の型からなり、これに5種の声調(高低アクセント)が加わる。子音の数は21(音節末では9)、母音は9(ほかに二重母音3)ある。なお、借用語の影響による多音節語も少なくない。
タイ語は固有の文字をもつが、13世紀末に南インド系の古カンボジア文字を模してつくられたものである。44(うち二字は廃字)の子音字と32の母音字と4個の声調符号があり、子音字を中心に適宜上下左右に母音字を組み合わせて音節をつくる。文字は左から右へ語の切れ目なしに横書きする。正書法と発音の間には多少のずれがある。数字はアラビア数字のほか固有のタイ数字が用いられる。
文法上は孤立語的構造を有し、名詞、代名詞は語形変化することなく、動詞、形容詞も活用しない。助動詞や助詞を使うこともあるが、基本的には語順が文法を決める。「主語+述語+目的語」および「被修飾語+修飾語」の順をとる。疑問文でも語順は変わらない。否定詞は否定される語の前につける。名詞を数えたり、さしたり、修飾する場合は類別詞(助数詞)が必要である。その語順は「馬・三・匹」「馬・匹・此」および「馬・匹・白」となる。指示詞はコレ、ソレ、アレ、ドレの体系をもつ。
単語は約3分の2は借用語で、インドのサンスクリット、パーリの両語、カンボジア語、マレー語、中国語などで占められる。とりわけインド語の重要性は、日本語における漢語の役割と同じである。単語は分析的傾向があり、「涙」は〈目の水〉、「果物」は〈木の実〉のようにいう。親族名称は独特で、「祖父母」は〈父の父〉〈父の母〉〈母の父〉〈母の母〉の四語があり、一方「きょうだい」は〈兄・姉〉と〈弟・妹〉の二語で表す。敬譲表現が豊富で、人称代名詞は身分の上下、男女の使い分けがある。畳語(語の繰り返し)が多いのもこの言語の特色の一つである。
[松山 納]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ひとつの民族としてのタイ族というのは,東南アジア大陸部を中心に,北は中国南部,南はマレー半島,東はベトナム,西はインドのアッサム地方にかけて広く分布し,タイ文化を共有する人びとの総称である。伝統的な意味でのタイ族とは,(1)タイ語を話し,(2)仏教を信じ,(3)一般に姓をもたず,(4)低地・渓谷移動の水稲耕作民だとされている。しかし,広義のタイ族を考える場合には,こうした定義だけでは不十分である。タイ系諸族のなかには多数の非仏教徒がおり,タイ国やラオス国に住むタイ族は現在姓を用いているからである。…
…ラオ語とユアン語の差異は小さいが,文字が別であるほか一部の音韻対応が異なる。例えば〈ぞう〉はラオ語でsaa,ユアン語でcaaという(ちなみにタイ語ではchaa)。一方,タイ祖語の語頭子音群はラオ語,ユアン語とも消滅した。…
※「タイ語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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