チベット文学(読み)チベットぶんがく

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チベット文学」の意味・わかりやすい解説

チベット文学
チベットぶんがく

チベットの文学作品には書かれたものばかりでなく,口承のものもある。現存最古の文献作品は,11世紀以前に成立し,敦煌洞窟に閉じ込められたままその後の改変をこうむらなかった作品で,編年史,叙事詩形式の年代記,祖先伝説,ポン教の儀式書,卜占の書,詩歌格言の形式をとる道徳的箴言,インドや中国の物語の翻案や翻訳などがある。これらの作品は,後世の作品に比べて仏教色が薄い。 11世紀頃から仏教思想の本格的導入が始り,文学もその影響を受けた。 11世紀の仏教詩人ミラレパは,民衆の教化のために,チベット固有の素材と表現法を用い,これをインド的なものに巧みに重ね合せ,融合させて,後世に影響を与える多数の歌謡をつくった。 12世紀以降近世にいたるまでの作品は,インド仏教の影響を強く受けた学僧の手に成ったものが多く,詩歌,賛歌,祈祷文,戯曲,伝記形式の小説,叙事詩,物語など,ほとんどすべてが宗教的雰囲気に包まれている。 16世紀のクンガ・レクパ,17世紀のツァンヤンギャツォらは例外的に民衆の発想に基づく作品を残したが,総じてミラレパ以後文学上の著しい発展はみられなかった。口承文芸については,調査がまだ十分でないが,文献作品をしのぐ豊かさがあるといわれる。労働,祭り,結婚式,春秋遠足,家庭の団欒などには,歌や語り物がつきもので,人々は即興的に歌をつくる技術,鑑賞力をそなえている。長大な英雄叙事詩ケサル王物語』をはじめ,多数の歌謡,語り物,民話が伝承されている。そこには宗教にとらわれない自由な創造力をみることができる。ドゥンバラマ・マニレーバアチェ・ハモなどの放浪の物語師,歌手芸人も口承文芸の伝播普及に貢献したと思われる。

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