微粒子からの光の散乱現象をいう。ファラデーの後を継いだイギリスの物理学者チンダルが詳しく研究したのでこの名がある。チンダルは、その著書のなかで「風のない日に遠くの小屋の屋根の上に立ち上る煙の柱を見ていた。その下のほうの背景は松林で黒く、上方は雲を背景とした明るい空であった。前者の部分は煙により散乱された光を見ることになるので青く、後者の部分は後方から煙を透過してくる光を見ることになるので赤っぽかった」と述べている。散乱粒子の大きさが光の波長に比し十分に小さい場合には、散乱光の強さは光の波長の4乗に逆比例して強くなるので、白色光が入射した場合、散乱光は青く、逆に散乱光として青い光を余分に失った透過光は赤っぽくなる。気体、液体の場合、それを構成している粒子が完全に均質で一様な密度であるならば、各粒子からの散乱光は、相互作用の結果、入射光の伝搬速度が真空中よりも遅くなるという効果を生ずるだけで、入射光と異なった方向に伝搬する散乱光は生じない。しかし通常は粒子密度に統計的な揺らぎがあるために、ちょうど均質な媒質中に密度の異なる微粒子があるのと同様な効果が生じ、チンダル現象が観測される。散乱光は粒子密度に比例する強さとなるので、液体の場合は気体より1000倍くらい散乱が強いはずであるが、実際は50倍くらいである。これは近接する粒子からの散乱光がランダムに干渉して弱め合うためである。気体の場合の散乱は通常はチンダル現象といわずにレイリー散乱とよんでいる。
[石黒浩三・久我隆弘]
J. Tyndall(チンダル)は,暗い部屋や夜の空に光の通路が見えるのは,空気中に浮遊している微粒子(霧やじんあい)によって光が散乱されるためであることを指摘し,空の青いのも日光の散乱によるものであることをはじめて実験的に示した(1869年).これをチンダル現象(あるいは効果)といい,この種の散乱光をチンダル散乱という.この散乱光は偏光になっているだけでなく,光の方向に対する角度によって強さがかわり(動径分布),光の波長によっても異なるために,微粒子によって散乱される白色光は,観測角とともにいろいろな色調を示す.この現象はとくに粒子がそろっている場合にいちじるしく,観測角が0°~90°の間では,散乱光の色は紫青緑黄橙赤の順に変化し,90°~180°の間ではこの逆になる.これを高次のチンダルスペクトルという.La Merらは単分散のゾルや霧をつくって,この現象を確認した(1943年).この現象は,粒子の大きさがそろっている(単分散)ことの証拠となる.[別用語参照]レイリー散乱
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
「ティンダル現象」のページをご覧ください。
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