フランスの法哲学者・公法学者。ボルドー近郊のリブルヌに生まれる。カーン大学を経てボルドー大学法学部教授となり、憲法学を担当。デュギーはH・スペンサーの社会有機体論、A・コントやE・デュルケームの社会学の影響を受け、社会学的実証主義を法科学の方法論として提起した。フランス革命によって確立された個人主義的法制度および注釈学派の方法論が、資本主義の発達に伴う19世紀末からの社会現象の多様化に対応しえない、との認識にたって、社会現象を貫いている社会連帯la solidarité socialeの事実の観察から新たな法理論を構築した。人間の行為は社会連帯(類似による連帯と分業による連帯)に合致する場合に社会的・法的価値を有するとの観点から、社会連帯を弱めるような何事もなすべきでなく、これを強化するようなあらゆることをなせ、という行為規範を導き出し、これを法の準則la règle de droitもしくは客観法le droit objectifとよんだ。デュギーは、この準則を統治者・被治者双方を規律するものと考え、これによる国家権力の制限を説くとともに、社会連帯強化のための国家の積極的義務(公共役務)および社会権の理論を展開した。主著に『国家/客観法・実定法』L'État ; le droit objectif et la loi positive、『憲法概説』Traité de droit constitutionnel(全5巻)などがある。
[畑 安次]
フランスの公法学者。フランス大革命以来の近代公法理論を積極国家に対応した現代的理論へと転換させるのに貢献した。感覚的に知覚可能な事実のみを法理論の基礎に置くという独自の実証主義的方法論を主張し,自然権や主権といった近代公法理論の基礎概念を形而上学として排斥し,それを通じてフランスの自然法理論とドイツの法実証主義理論をともに否定した。しかし,他方で,膨張する国家を新たな装いの下に法の支配に服せしめる必要を説き,それを可能にする新たな理論として客観法もしくは社会法の理論を提唱した。法の源泉をデュルケームに学んで客観的事実としての社会連帯solidarité socialeに求め,社会的強者と理解された国家(統治者)も社会連帯の中に組み込まれているから,それが生み出す法には従わなくてはならないと論じた。また,このような社会連帯の観念の展開の中から公役務service public概念を導き出し,それを中心にして行政法理論の再構成を試みた。主著は《私法変遷論》《公法変遷論》《憲法論》など。
執筆者:高橋 和之
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…その立場によれば,現在の民法や商法が不法行為や債務不履行の場合に,相手方に訴権を与えているのは,権利中心の構成をとる近代私法の特色だということになる。この理論を基礎として,〈近代〉と区別された〈現代〉は,社会連帯の理念から,義務中心の法体制に転換しなければならないとか(L.デュギー),日本人には近代的法意識が欠けているから,権利意識が低いのだ,などといわれることがある。 他方には,人間は実定法以前に自然権をもっていて,法はそれを保護するためのものだという自然権思想もある。…
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