トゥルカナ族(読み)トゥルカナぞく(英語表記)Turkana

改訂新版 世界大百科事典 「トゥルカナ族」の意味・わかりやすい解説

トゥルカナ族 (トゥルカナぞく)
Turkana

東アフリカ,ケニア北西部に住む牧畜民。その言語は東スーダン諸語の中央パラ・ナイル系テソ語群に属する。人口約16万。牛,ヤギ,羊,ラクダロバの5種類を飼養し,これらの肉やロバ以外の家畜乳と血とを主食とする。モロコシを中心とする耕作が一部の地域で行われるが,食生活の中で農産物の占める比率はごくわずかである。トゥルカナ族の生活地域の大部分は,年降水量200~400mmという非常に乾燥した半砂漠である。イネ科の草本を主要食物とする牛は平原部では飼えず,降雨の多い丘陵地へ連れていかなければならない。そのためトゥルカナ族では,一つの父系複婚家族の成員が最低二つに分かれて居住し,ときには両者は100km以上も離れてそれぞれ独自に遊動するという遊牧形式がとられる。

 彼らの世界観の中では,神(アクジュ),精霊(エケペ),予言者(エムロン)がさまざまな超自然的事象をつかさどっている。予言者は,1対のサンダルを牛皮の上に放り出してその重なりぐあいをみたり,手のひらに広げた嚙みタバコをみたりして人知の圏外にある事象を読みとり,また人の運命を夢にみる。そして人の不幸の原因を探り出し,儀礼を通じて治療を施す。結婚に際しては花嫁代償(婚資)として家畜の授受が行われる。その量は機会ごとに談合で決定されるが,平均して大家畜(牛,ラクダ)40~50頭,小家畜(ヤギ,羊)約100頭と,多数の家畜が夫側の親族から嫁側の親族へ移籍する。そのため男性の初婚年齢は高く,未婚で出産する女性も多数いるが,社会はそれを容認する体制(出産した子どもを母親の父親の子どもとする)を備えている。トゥルカナ族は,周囲に住む他部族(ジエ,ドドス,カラモジョン,ポコット,トポーサなど)をすべて敵(異人)とみなしており,家畜の争奪をめぐる争いが絶えない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トゥルカナ族」の意味・わかりやすい解説

トゥルカナ族
トゥルカナぞく
Turkana

ケニア北西部の乾燥草原に住む牧畜民。ナイロ=ハム語系諸族の中央群に属し,人口約 36万と推定される。ウシを連れて移動する青年と,ヤギ,ヒツジ,ラクダを連れる家長とに分かれ,移牧を行なう。年齢組体系は,「石」と「ヒョウ」という半族を伴い,父と子は異なる半族に属する。首長制はなく,3世代ほどの合同家族が社会単位となる。外婚制氏族には,政治・経済的機能はなく,女性に課される諸禁忌の単位となっている。ウシの略奪によって近隣諸民族と対立関係にあり,精強さで知られる。1980年には干魃のためウシ,ヤギなど家畜の多くを失い,人口もかなり減少したといわれる。

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世界大百科事典(旧版)内のトゥルカナ族の言及

【ケニア】より

…カレンジンの人口は246万である。ほかに北部の半砂漠地帯にはパラ・ナイル語系のトゥルカナ族(28万),や,クシ語系のソマリ系住民(42万),レンディーレ族,ボラナ族,ガブラ族,ガラ族などのラクダ,羊,ヤギなどを飼養する牧畜民が分布する。 キクユとルオの対立にみるような部族対立の解消のため,初代のケニヤッタ大統領は〈ハランベー(力を合わせて働こう)〉のスローガンを掲げて国民としての統合を求めた。…

※「トゥルカナ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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