改訂新版 世界大百科事典 「外婚制」の意味・わかりやすい解説
外婚制 (がいこんせい)
exogamy
婚姻の相手を一定の集団外に求める,つまりその集団内での婚姻を禁じる制度。出自を父系または母系でたどる単系集団にはこの規定を伴うものが多い。相手との結婚の可否を峻別するこの規定の存在自体が,集団の境界を明確に意識させてその結合を強めると同時に,婚姻による紐帯を集団外に拡大して他集団との連帯を強化する機能をもつ。婚姻関係は,敵対関係にある集団と友好関係を保つもっとも有効な手段となりうるのである。配偶者選択の範囲がさらに,集団外ではあるが一定の〈交叉いとこ〉に限定されている場合には,集団間に女性の規則的交換関係が超世代的に維持され,社会全体の有機的結合を強めることが,レビ・ストロースによって明らかにされている(いとこ婚)。このように社会的紐帯の拡大に役立つという点では,近親相姦禁忌(インセスト・タブー)と共通しており,両者を同じ範疇(はんちゆう)に含める人類学者もいる。たとえば中国では,父系親族である同姓間で通婚しないことを人倫上の問題,すなわち近親相姦禁忌の延長としてとらえているように,その違反は近親相姦と同様の社会的憤激をひき起こし,処罰される社会も少なくない。しかし系譜関係が遠くなると,族外婚規定は適用されても性的関係をもつのは黙認されている場合もある。また父系社会を例にとれば,母,姉妹の娘など非父系親族との性的関係を禁じているのは族外婚規定ではなく,近親相姦禁忌によるものである。したがって近親者間の性的関係の禁止と,集団内の通婚禁止である外婚規定は区別すべきであろう。ただし,たとえば父系社会で自己の父系出自集団だけでなく,母の父系集団や,擬制的親族の子どもどうしの婚姻を禁ずるなど,外婚規定の延長とみられる場合もしばしばある。また,外婚制と内婚制は,それぞれ対象とする集団が異なっていれば,同一の社会において共存することがある。
→姻族 →近親相姦 →内婚制
執筆者:末成 道男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報