翻訳|tocopherol
ビタミンE作用物質の一つで、アメリカの発生学者エバンズHerbert McLean Evans(1882―1971)が1922年ネズミの生殖に必要な因子として発見した。日本薬局方に収載されているトコフェロールは別名ビタミンEで、正確にはdl-α(アルファ)-トコフェロールである。化学式はC29H50O2で分子量は430.71。純度は96.0%以上である。
[幸保文治]
天然に存在するトコフェロール(ビタミンE)としては、α、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)の同族体があるが、ビタミンEの生物活性はαがもっとも強く、β、γ、δの順で続いている。ビタミンEの作用は、主としてその抗酸化作用にあると考えられている。すなわち生体内では、不飽和脂肪酸などは容易に酸化がおこり、種々の障害の引き金となると考えられている過酸化脂質を生ずるが、ビタミンEはこれを防ぐ働きがある。したがってビタミンの必要量は、摂取する油脂の高度不飽和脂肪酸の量に比例すると考えられている。
ビタミンEの消化管からの吸収は同族体の間では差はないが、肝臓に達すると、肝細胞中にあるビタミンE結合タンパクによって選択的にα-トコフェロールが血中リポタンパクの代謝に取り込まれることがわかってきた。これがα-トコフェロールの生物活性が強い理由と考えられる。合成のall-rac-α-トコフェロールよりも天然のRRR-α-トコフェロールのほうが臓器への分布がよい理由も、ビタミンE結合タンパクによるものと考えられている。
トコフェロールのもつ抗酸化性は主として油脂食品の抗酸化剤に利用される。この場合、持続性のあるγやδ-トコフェロールが有利となる。不飽和脂肪酸含量の高い植物油にはもともとトコフェロールは比較的多く含まれているが、精製などの製造工程で取り除かれてしまうことが多く、また、古くなれば不飽和脂肪酸の自動酸化によって消費されていることが多い。
[木村修一]
『ビタミンE研究会編『ビタミンE研究の進歩1』(1990・エイド出版、医歯薬出版発売)』▽『ビタミンE研究会編『ビタミンE研究の進歩2~8』(1992~1998・共立出版)』
動物の健全な妊娠分娩に必要な,ビタミンE作用を有するトコールのメチル誘導体.メチル基の数と位置により,α-,β-,γ-,δ-トコフェロールなどとよばれる.小麦胚芽油,綿実油,大豆油などの植物油に0.1~0.3% 含まれている.2位の不斉炭素に関し,天然品はR形である.
α-トコフェロール(5,7,8-トリメチルトコール,)は淡黄色のやや粘ちゅうな液体.融点2.5~3.5 ℃,沸点200~220 ℃(13 Pa).+0.65°(エタノール).ラセミ体はトリメチルヒドロキノンとフィトールとの縮合により合成される.抗不妊作用の原因は,抗酸化作用であることが明らかにされた.β-トコフェロ-ル(5,8-ジメチルトコール)は抗酸化性の淡黄色油.沸点200~210 ℃(13 Pa).+6.37°.γ-トコフェロール(7,8-ジメチルトコール)は融点-3 ℃.+2.2°(エタノール).δ-トコフェロール(8-メチルトコール)は融点41~42 ℃,沸点150 ℃(0.1 Pa).α-,β-,そのほかのトコフェロールのビタミンE活性は約100:33:1である.ビタミンEの国際単位は(±)-α-トコフェロールの酢酸エステル1 mg に相当する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
「ビタミンE」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…光,酸素濃度,温度,水分などの因子が自動酸化に影響している。自動酸化を防止するための抗酸化剤が開発されており,トコフェロール(ビタミンE)は代表的な天然の抗酸化剤である。なお,銅や鉄などの原子価2以上の重金属やミオグロビンやヘモグロビンなどのヘムタンパク質は,自動酸化を促進する。…
…これによって,腎石灰化症や腎組織の壊死,腎不全や高血圧症などが発症する。
[ビタミンE]
抗不妊因子として発見された脂溶性ビタミンで,天然にはα‐,β‐,γ‐ならびにδ‐トコフェロールtocopherolと,α‐,β‐,γ‐ならびにδ‐トコトリエノールtocotrienolの8種類が知られる。α‐トコフェロールは自然界に最も広く分布し,ビタミンEとして普遍的な生物活性を示している。…
※「トコフェロール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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