トコン(読み)とこん(英語表記)ipecac

翻訳|ipecac

改訂新版 世界大百科事典 「トコン」の意味・わかりやすい解説

トコン (吐根)
ipecac
ipecacuanha
Cephaelis ipecacuanha(Stokes)Baill.

ブラジルの熱帯降雨林下にはえるアカネ科の木本状の草本。根を乾燥したものを薬用とし,このため熱帯地方で栽培される。木化した茎が長く地上をはい,地上茎は立ちあがり高さ10~40cm。葉は対生し楕円形,長さ5~9cm,先の分かれた托葉がある。根の一部が太くて連珠状となる。この部分を吐根として利用する。葉腋(ようえき)より短い花梗を出し,その先に十数個の花を頭状につける。花は5数性で放射相称,花冠は白く筒状漏斗形,子房下位で2室,各室に一つの胚珠がつく。果実は球形,直径1cm,赤く後に黒く熟する。

 根にアルカロイドエメチンemetine,ケファエリンcephaelineなどを含み,エメチン製造原料とする。エメチンはアメーバ赤痢特効薬として,ケファエリンは催吐剤として用いられる。吐根は粘膜に局所刺激を与え,吸収されて粘膜の分泌作用を促進し,充血を起こす。内服によって気管粘膜の分泌を促し,腸管の運動を高めるので,去痰薬,緩下薬として応用される。古くから南アメリカの現地民がアメーバ赤痢治療に使用していたが,ヨーロッパでは17世紀末にオランダの医師エルベシウスがこれを用いてルイ14世の王子らを治療して以来,赤痢や下痢の特効薬として広まった。

 トコンのほかに薬用で吐根として利用されるものにコロンビア原産のカルタゲナトコンC.acuminata Karst.,グアテマラからボリビアに分布するコクショクトコンC.emetica Pers.がある。属は異なるがアカネ科でブラジル原産のRichardia scabra L.の根も吐根(英名false ipecac)として利用される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トコン」の意味・わかりやすい解説

トコン
とこん / 吐根
ipecac
[学] Cephaelis ipecacuanha (Brot.) A.Richard

アカネ科(APG分類:アカネ科)の低木。高さ20~40センチメートルで、ブラジルの暗い湿潤な森林中に自生する。また、インド、ミャンマービルマ)、マレーシアでは栽培されている。葉は数が少なく2~3対生し、倒卵形、全縁で葉柄がある。花は白色で小さく、多数が頭状花序様に集まり、茎頂の葉腋(ようえき)につくが、花序柄が長いために頂生しているようにみえる。花冠は漏斗(ろうと)状をなす。果実は暗紫色の液果で2個の種子をもつ。根は節のような凹凸が多く、乾燥したものは径2~3ミリメートルで、表面は褐色を呈する。リオ・デ・ジャネイロから積み出しされる根を、リオ吐根と称し、鎮咳(ちんがい)、去痰(きょたん)、催吐剤として用いる。根はアルカロイドを2~3%含むため、その主成分であるエメチンを塩酸塩として分離し、これをアメーバ赤痢の治療に用いる。コロンビアの森林中に自生するアクミナータ種C. acuminata Karstenの根はカルタゲナ吐根と称し、リオ吐根と同様に用いる。

[長沢元夫 2021年5月21日]

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百科事典マイペディア 「トコン」の意味・わかりやすい解説

トコン

生薬。ブラジル原産のアカネ科植物トコンの根を乾燥したもの。エメチン等のアルカロイドを含む。催吐薬,去痰(きょたん)薬,下剤として用いる。またアメーバ赤痢にも有効。
→関連項目催吐剤ドーフル散

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